第1243回
中国の最終兵器・人民元高

中国政府は2008年7月以降、
金融危機による自国の輸出産業の崩壊を防ぐために、
従来の通貨バスケットを参考とした管理フロート制を改め、
人民元のレートを米ドルに固定させる
ドル・ペッグ制を採用してきました。

しかし、財政出動や金融緩和などで金融危機を乗り切り、
再び国内経済を高度経済成長の軌道に戻した中国政府は、
出口戦略の一環として、今年6月、
約2年ぶりに人民元の為替政策を
元の管理フロート制に戻しました。

これで世界は「人民元高が急速に進む」と見たのですが、
実際は、ドル・ペッグ制のときの1米ドル=6.83人民元から
大して元高にはなっていません。

なぜ、中国政府は人民元を高め誘導しないのでしょうか。

それは、中国政府が
人民元を高め誘導する理由はただ1つ、
過剰流動性による中国国内のインフレを
抑えることしかないためです。

先日、中国国家統計局が発表した
8月の消費者物価指数(CPI)上昇率は
前年同月比3.5%と、2ヶ月連続で
中国政府が年間目標としている3%を上回りましたが、
これは夏の水害の影響で野菜や穀物などの価格が上昇した、
という特殊要因によるもので、
今の中国経済を全体的に見れば、
人民元高という強烈な手段を使って
押さえつけなければならないほどの
インフレにはなっていません。

唯一、バブル状態で中国政府が注視していた不動産市場も、
今年4月の不動産融資規制であっけなく沈静化しました。

人民元高、という政策は
強烈な破壊力がありますので、
不動産のバブルは沈静化できるかもしれませんが、
同時に輸出産業に壊滅的な打撃を与え失業者が急増、
国内情勢が不安定となるリスクがあります。

過剰流動性によるインフレを押さえつけるには、
まずは、業界狙い撃ちの規制、
それでも抑えられなければ
預金準備率の引き上げや利上げで
マネーサプライを絞るのが先です。

中国政府にとって人民元高は、
それでもどうしようもないときに使う
最終兵器なのです。


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2010年9月27日(月)

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