第1278回
お年寄りに席を譲る中国の人たちの余裕

地下鉄やバスで優先席でなくてもお年寄りに席を譲る。
北京の街では日常的に見られる光景です。

これは非常に良い習慣ですので、
ぜひ日本もこうであってほしい、と思うのですが、
逆に、中国の人たちはなぜ、せっかくゲットした座席を
いとも簡単にお年寄りに譲るのか?

それは小さい頃からお年寄りを大切にする教育が徹底しており、
それが社会全体に「お年寄りはみんなでいたわろう」
というコンセンサスを形成していることもあると思うのですが、
一方で、中国の人たちが地下鉄やバスで
どうしても座席を譲りたくないほど疲れていない、
という要因もあるような気がします。

私は日本にいたときには、恥ずかしながら、
優先席ではない場合、立っているお年寄りを見つけても、
見て見ないふりをしたり、寝たふりをして
座り続けたことが何度もありました。
なぜ座り続けたのか?
それはお年寄りも疲れるかもしれないが、
自分も死ぬほど残業して常に疲労困憊状態にあり、
20分でも30分でも座席に座って眠ったり、
体を休めたりしたかったからです。
「お年寄りに席を譲るべきだ」と頭ではわかっていても、
心身共に疲れきっていて座り続けてしまう。
日本にはそんな人も多いのではないでしょうか。

そんな私も中国に来てから残業がなくなり、
あまり疲れなくなると、
地下鉄やバスで他の乗客と先を争って
お年寄りに席を譲るようになりました。
中国に来てわかったのですが、
中国の人たちは日本人ほど疲弊していないので、
体力的にも心理的にもお年寄りに席を譲る余裕があるのです。

中国は今、高度経済成長の真っ只中ですが、
日本の高度経済成長期に出現した、
昼夜を問わずに働くモーレツ社員のような人は
あまり見かけません。
残業も以前に比べて増えた、と言っても、
残業時間は月20時間、1日1時間程度。
その程度の残業で胃の不快感やモヤモヤを感じる、
と言っているぐらいですから、
日本の常識から考えれば天国のような労働条件です。

地下鉄やバスでお年寄りに席を譲れるほど楽勝な働き方でも、
毎年10%前後の高度経済成長を続け、
国内総生産(GDP)で日本を抜かそうとしているのですから、
今の中国の人たちは大したものです。
体も心も余裕を持ったまま豊かになっていけるのであれば、
それに越したことはありません。

逆にこんなに余裕を持った状態でも
これだけの経済成長ができる、ということは、
中国の人たちが日本人並みに働き始めたら、
中国経済は大変なことになりそうです。

地下鉄やバスでお年寄りに席を譲る
心身共にまだまだ余裕がある今の中国の人たちを見ても、
中国の今後の計り知れない潜在成長力の大きさを
うかがい知ることができるのではないでしょうか。


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2010年12月17日(金)

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