第1349回
「Yes, ミシミシ、ホアグーニャン」

先日、日本の偽造パスポートで
アメリカに入国しようとした9人の中国人が、
入国審査の際に話した日本語がもとで、
中国人だと見破られてしまった、
という事件が起きました。

入国審査の審査官が
「Can you speak Japanese ? (日本語は話せますか?)」
と訊いたのに対し、彼らの1人が
「Yes, ミシミシ、ホアグーニャン」
と答えたのだそうです。

私はこのニュースを聞いたときに、
あまりのバカバカしさに、
冗談好きのアメリカ人がおもしろおかしく作った
アメリカンジョークかと思ったのですが、
どうやら本当の話のようです。

密入国という人生を賭けたシリアスな場面での、
「Yes, ミシミシ、ホアグーニャン」という
何とも弛緩した発言。
密入国をナメているとしか思えません。

「ミシミシ」と「ホアグーニャン」は、
両方とも昔の中国の戦争映画で、
日本兵がよく言っていたセリフです。

「ミシミシ」は日本兵がご飯を食べるときに
「飯飯(めしめし)」と言いながら食べる場面で
使われたようです。

昔の中国の戦争映画は日本兵役も
中国人の役者さんがやっていましたので、
「めしめし」が「ミシミシ」に訛り、
監督も日本語がわかりませんので
そのまま「カット!オッケー!」となり、
やがて「ミシミシ」は「ご飯を食べる」という意味で、
「こんにちは」や「ありがとう」をはるかに凌いで、
「中国で最も有名な日本語の単語」の座を
不動のものとしたのでした。

また、「ホアグーニャン」に至っては
日本兵のセリフではありますが、
既に日本語の単語でさえありません。
中国語の単語です。
漢字で書くと「花姑娘」。
「若くてきれいな女性」というような意味です。

現代の中国では「花姑娘」などという
古臭い言い回しをする人はいませんので、
密入国しようとした人たちは「ホアグーニャン」も
日本語の単語だと思ったのかもしれません。

アメリカ人の入国審査官は、
こうした「ミシミシ」や「ホアグーニャン」の
背景は知らないと思いますが、
よく両方とも日本語の単語だと勘違いして、
彼らを入国させてしまわなかったものです。
ま、「Can you speak Japanese ?」と訊いている時点で、
既に100%疑いの目で見ているわけですが...。

私は今まで幾度となく、
私が日本人であるとわかったタクシーの運転手さんから
「ミシミシ」と言われ、
その度に「ミシミシ」が「ごはんを食べる」という意味の
正しい日本語ではないことを説明してきました。

今回の事件を機に、
「中国で最も有名な日本語の単語」である「ミシミシ」は
実は正しい日本語ではなかった、という事実を、
多くの中国の人たちが認識してくれると良いな、
と思っています。


←前回記事へ

2011年5月30日(月)

次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ