第1355回
チャイナマネーの外国企業買収

私が大学を卒業するときに書いた卒業論文は、
日本企業による海外企業のM&A(合併・買収)についてでした。

私が大学を卒業した1989年、
当時の日本はバブル経済真っ盛り、
日本企業は国内に溢れかえるマネーと高い円を武器に、
次々と海外の巨大企業を買収し、
M&Aが一つのブームのようになっていたからです。

一方、当時の中国は投資される側でした。
プラザ合意後の急激な円高に悲鳴を上げた
日本の輸出製造企業は、
安価な労働力を求めて、
大連などに投資して続々と工場を建設、
中国は後に「世界の工場」と呼ばれる
生産基地としての地歩を固めていました。

それから22年。
いよいよ中国が投資される側から投資する側に
そのポジションを移すときがやってきました。

先日、中国商務省対外投資経済協力局は、
今後3年以内に中国の対外直接投資の額が
外国からの中国への直接投資の額を超える、
との見通しを示しました。

中国の外貨準備高は今では3兆ドルを突破し、
日本の3倍となりました。
しかし、一方で積みあがった外貨準備高と
同じだけの人民元が市中に出回り、
日本のバブル経済の頃と同じように、
国内に溢れかえるマネーによる
インフレに頭を悩ませています。
このため、中国政府は中国企業の
海外投資、海外進出を奨励して、
国内の人民元を再び外貨に戻して海外に放出し、
国内の過剰流動性の圧力を何とか下げようとしています。

同省によれば、
2010年の中国の対欧投資額は前年比297%増、
対日は120%増、対米は81%増となったのだそうです。
そして今後も欧州、米国、中南米の企業に対する
中国国有企業によるM&Aを中心に
中国の対外直接投資額は年間20-30%の高い伸びを示し、
この勢いで行くと、今後3年以内に
外国からの中国への直接投資額を超える見込みである、
とのことです。

今までは資源関係など一部の業界に限られていた
中国企業の外国企業に対するM&A。
しかし、今後は国策の後押しもあり、
あらゆる業界でチャイナマネーの
外国企業買収が進むことが予想されます。

しかし、米議会が安全保障上の懸念を理由に、
中国企業の米企業買収を相次いで阻止するなど、
先進各国では中国からの投資の受け入れに
警戒感が根強いのも事実です。

私がM&Aについての卒業論文を書いた1989年、
三菱地所はニューヨークの
ロックフェラー・センターを2,200億円で買収。
これがバブル経済で日本国内に溢れかえるジャパンマネーの
海外資産買いあさりの象徴的な例として、
Japan Bashing(日本叩き)の端緒となりました。

そして今、今度は中国がチャイナマネーによる
海外資産買いあさりでBashingの対象になりつつあります。

Japan Bashingのときには、
日本が外国から批判されて
イヤな気持ちになったものですが、
今、中国が諸外国から
Bashingを受けているのを傍で見ていると、
「叩かれているうちが華だな」と思うと同時に、
日本を再び諸外国から叩かれるぐらい
勢いのある国にしたい、と強く思いました。





←前回記事へ

2011年6月13日(月)

次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ