第1356回
インフレの中国で利下げ!?

4月のCPI(消費者物価指数)上昇率が5.3%と、
依然として今年の政府目標である4%を大幅に上回り続け、
インフレが止まらない中国経済。

これに対し中国政府は、
昨秋以降4回の利上げ、
ほぼ月に1度の預金準備率引き上げ、
そして最近は人民元高容認と、
あらゆる手段を駆使して、
この過剰流動性によるインフレを
退治しようとしています。

しかし、こうした金融引き締め策は、
雨のように誰に対しても等しく降りかかりますので、
中国政府がやっつけたいと思っている、
インフレを助長させている投機筋だけではなく、
本当に資金を必要としている中小企業をも
苦境に陥れてしまっているようです。

先日、中国商務省機関紙・国際商報は1面トップで
「度重なる利上げで、苦境に陥る中小企業」
という記事を掲載しました。

記事によれば浙江省の輸出品製造会社は
「昨年10月に利上げが始まって以来、
これまでの利払い額は従来と比較して
150万元(1,875万円)も増えた」と説明。
「利上げがされる毎に金融コストが増加し利益が減る。
しかし、一度生産を止めれば再開は難しいため、
損失を計上したとしても生産は続けなければならない」
と話しています。

また、ある服飾関連会社は利上げの度に
生産計画が妨げられると中国政府の政策を批判。
更に、原材料の上昇と労働コストの上昇のダブルパンチで
ただでさえ経営が苦しいにも関わらず、
金融引き締めで銀行融資を得るのは難しく、
かと言って銀行以外のノンバンクで借りれば
年利15%以上の高利を要求されるため、
資金繰りにはほとほと頭を悩ませているのだそうです。

そんなこともあり、
4月は新車販売が2年3ヶ月ぶりにマイナスに転じたり、
鉱工業生産の伸びが大きく鈍化したりと、
景気の先行きに不透明感が増し始め、中国はここに来て、
インフレは一向に解消されないのに景気が減速する、という
スタグフレーションに陥る可能性が大きくなってきました。

こうした状況に対し、
中国国家発展改革委員会傘下の
マクロ経済学会・王建秘書長は、
「中国人民銀行は今後、利上げに非常に慎重になるだろう。
実際、今年下半期には利上げを中止して
利下げに踏み切る可能性があると考えている」
と述べています。

また、新規プロジェクト向けの融資が絞られる中で、
間もなく固定資産投資は勢いを失うだろう、と指摘。
投資が減少、消費も低迷、輸出も不安定、という
成長エンジン不在の状況になっても、
従来のインフレ抑制政策を続けるべきなのか、
今後、中国政府はマクロ経済政策の
抜本的な見直しを迫られるのではないか、
と同氏は見ています。

利上げ、預金準備率切り上げ、人民元高容認は、
全て、国家の経済全体に影響を及ぼしますので、
効果は絶大ですが、
逆に「角を矯めて牛を殺す」という結果にもつながりかねません。

こうした絨毯爆撃も必要だとは思いますが、
それと同時に退治したいところだけを退治する
ピンポイント爆撃にもより力を入れて、
景気の減速を回避しながらインフレを退治する、
という丁寧な経済政策が
今の中国政府には求められているのではないか、
と私は思います。





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2011年6月15日(水)

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