第1360回
中国の中途半端な禁煙政策

3.5億人の喫煙人口を擁する
世界一のたばこ大国・中国。

成人の喫煙率は30%前後と日本とあまり変わらないのですが、
男女比で見ると日本が3:1であるのに対し、
中国は15:1と圧倒的に男性スモーカーが多いのが特徴です。

また、中国でのたばこの役割は、
日本のように個人で楽しむ他に、
接待や贈り物としても使われます。
このため、日本では
たばこの値段はだいたいどれも同じなのですが、
中国には接待用の高級たばこマーケットが存在し、
かのケ小平氏も好んで嗜んだという
「熊猫(しゅんまお、パンダ)」は、
1箱20本入りで150元(1,875円)もします。

私も中国企業との宴会に出ると必ずたばこを勧められます。
私はたばこは吸えないのですが、
「吸えない」と言うとこちらが申し訳なくなるぐらい
残念そうな顔をされますので、
勧められたらありがたく吸わせてもらうことにしています。
中国ではたばこは白酒(ばいじょう)と共に
非常に重要な「男の交際ツール」なのです。

しかし、世界的に喫煙の健康に対する悪い影響が問題視され、
また、スモーカー本人だけではなく、
周りにいたノンスモーカーが受動喫煙により
肺疾患を患うケースも増えていることから、
中国政府は先月から中国全土のホテル、映画館、レストランなど
屋内の公共の場での全面禁煙をスタートしました。

とは言え、そうした全ての公共の場に
警察官を派遣して取り締まるわけにもいきませんので、
公共の場の経営者に対し、
人目に付くように禁煙マークを掲示したり、
顧客の喫煙行為を止めさせるための
担当の従業員を置いたりすることを義務付け、
違反した経営者には500元(6,250円)から
3万元(37.5万円)の罰金を科す、
というシステムであるようです。

「人民の監視は人民にやらせる」。
中国共産党が最も得意とするやり方です。

しかし、昔のように中国共産党に逆らう反動分子を
嬉々として密告するような忠誠心が厚く且つヒマな人間は
現在の中国にはほとんどおらず、
北京の人気レストランの従業員も
「喫煙者に対する罰則はないので、
大事な客に「たばこは吸わないでください」
とは言いづらい」と困惑気味です。

更に、政策を打ち出した中国政府自身も、
規定の周知徹底をしなかったり、
オフィスを公共の場の対象外にしたり、と
本気で禁煙を推し進めようという
意気込みが感じられません。
これは喫煙者が減ってしまうと、
中国の財政収入の10%以上と
個人所得税よりもずっと大きな比率を占める
たばこ税の収入も減少してしまい、
国家財政に大きな影響を与えるためであると思われます。

禁煙に積極的な文明的な国家であると見られたい。
一方でたばこ税の収入が減ってしまうのは困る。

そんな中国政府が抱えるジレンマの中で打ち出された
今回の中途半端な禁煙政策は、
やがて空中に漂う紫煙のように消えてなくなり、
中国は世界一のたばこ大国で
あり続けるのではないかと私は思います。


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2011年6月24日(金)

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