第1362回
スケープゴートにされたユニリーバ

中国のインフレが止まりません。

CPI(消費者物価指数)の前年同月比上昇率は
2011年3月が5.4%、4月が5.3%、5月が5.5%と
3ヶ月連続で5%を超え、
今年の中国政府の抑制目標である4%を
はるかに上回る状態が続いています。

特に食品価格の5月の前年同月比上昇率は11.7%と、
全体の2倍以上のペースでの上昇が続いており、
庶民の生活を圧迫しています。

中国政府は物価高で生活が苦しくなった庶民の
不満の矛先が自分たちに向かうことを恐れ、
利上げ、預金準備率引き上げなど
様々なインフレ対策を行っていますが、
今のところ目立った効果は上がっていません。

そんな中、英蘭系日用品大手・ユニリーバの中国法人が、
製品の値上げ情報をまき散らして市場秩序を混乱させた罪で、
上海市物価局から200万元(2,500万円)という
巨額の罰金を科せられる、という事件が発生しました。

ユニリーバは今年4月からシャンプーや洗剤などの主要製品を
6-15%値上げする方針を取引先に通知していましたが、
生活必需品の連鎖的な値上げにつながることを懸念した
中国国家発展改革委員会から値上げの延期を要請され、
同社はこのタイミングでの値上げを断念しました。

しかし、同社幹部はそれに先立って
複数の中国メディアの取材に
「日用品業界は値上げ時期に入った」
などと答えて値上げムードをあおり、
その影響で一部の都市では庶民が
値上げ前に日用品を大量に買っておこうという
買い占め騒動が発生、
これが中国の価格法に抵触した、
というのが中国政府の言い分です。

中国洗浄用品工業協会によれば、
2010年後半の半年間で
日用品化学製品の原料価格は平均で50%も上昇し、
コスト増を販売価格に転嫁できず
赤字に陥る日用品メーカーが続出、
昨年1-11月の洗浄用品業界全体の赤字額は、
前年同期比で49%も増加していました。

さすがの中国政府も民間企業に対して
「インフレを抑えるために、値上げは禁止、
赤字はガマンしろ」とは言えないようですが、
中国政府が最も嫌う
庶民による騒動を引き起こした、ということで、
同社は高額の罰金を科されることになったようです。

実際、5月に入って同社はシャンプーなど
一部商品の最大10%の値上げを実施。
しかし、前回の高額罰金に懲りた同社は
一切のコメントを拒否し、
発展改革委からのお咎めも無かったようです。

一方でうまく立ち回ったのが
米清涼飲料大手のコカ・コーラとベプシコ。
両社はコーラの値段は据え置く代わりに、
ペットボトルを従来の600mlから500mlへと小さくしました。

実質20%の大幅値上げですが、
両社は「中国だけを対象としたものではない」、
「一度に飲む量が減っているのは世界的傾向」などと説明し、
あくまで消費者のニーズに合わせた変更であることを強調、
当局のお咎めも一切無いようです。

他社への警告のために
スケープゴート(いけにえ)にされたユニリーバと、
それを見てうまく立ち回ったコカ・コーラとペプシコ。

この一連の値上げ騒動には、
「中国政府の政策に逆行するようなことはしない」、
「役人には絶対に逆らわない」、
「目立たない」などなど、
中国ビジネスで失敗しないための秘訣が
凝縮されているように思いました。


←前回記事へ

2011年6月29日(水)

次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ