第1439回
北京の白い空

15年前、
私が東京から北京に住まいを移したときに驚いたのは、
北京の空気の汚さでした。

何しろ晴れている日でも空は真っ白。
1年のうち青空を拝めるのは、
秋の数日と雨が降った次の日だけという状態でした。
こんな環境で育った北京の子供たちに空の絵を描かせたら、
みんな空を青ではなく白く塗るのではないか、
と心配になったほどです。

北京の白い空と月のように浮かぶ太陽(2007年)

それが2008年になると、
中国政府は北京オリンピック開催に備えて、
北京にある工場の地方移転、
曜日毎の自動車ナンバー規制など、
徹底した大気浄化対策を行いました。
この対策の効果は抜群で、北京ではほぼ毎日のように
青空を見ることができるようになりました。

しかし、オリンピック終了後、
曜日毎の自動車ナンバー規制などの
対策を継続したにも関わらず、
北京の空気はどんどん悪くなり、
今では残念ながらまた昔のように、
晴れても白い空の日が多い街に戻ってしまいました。

北京オリンピックのときに地方に移転させられた工場は
北京に戻ってきてはいませんので、この空気の悪化は全て
自動車の増加によるものだと言われています。

北京市政府はマイカーの増加数を抑制して、
大気汚染を防止するために、
今年初めから自動車のナンバープレートの交付枚数を、
昨年の新規登録台数の1/3でしかない
月2万枚に制限していますが、
逆に言えば、市内を走るマイカーは、
毎月2万台ずつ増えている、ということでもあります。

北京の空気をこれ以上汚染させないためには、
ナンバープレート交付制限の他にも、
公共交通機関の更なる整備、
地下鉄駅周辺の駐車場整備によるパークアンドライドの推進、
都市部進入税の創設、自動車税、ガソリン税の増税等、
マイカーを持っていてもあまり乗らせないための
抜本的な対策が必要になりそうです。

昔の北京の街の風景と言えば、
必ず朝の自転車の大群の映像が映し出されたものです。
しかし、高度経済成長による市民の富裕化と都市の巨大化により、
今では郊外のマイホームから
マイカーで通勤することが1つのステータスとなり、
北京は世界一交通渋滞の激しい都市、という
不名誉な称号まで与えられるようになりました。

せっかく豊かになっても、
自分たちが運転するマイカーの排気ガスによる
大気汚染が原因で早死にしてしまっては、
元も子もありません。
北京市民はもう一度豊かさの意味を考え直し、
ちょっと不便でもみんなで昔の自転車文化を復活させて、
きれいな空気の中で心豊かに長生きする道を
選ぶべきなのではないかと思います。


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2011年12月26日(月)

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