第1445回
銀行が恐れるパニック売りの「臨界超過」状態

今や、誰の目にも明らかな中国の不動産価格下落傾向。

私は不動産価格が右肩上がりから右肩下がりに転じたとたんに、
今まで投機目的で不動産に投資していた人たちが、
まるで沈没する船から逃げるねずみのように
投げ売りを始めるので、
不動産価格はすごい勢いで下落していくのではないか、
と予想していました。

しかし、今のところ不動産の投げ売りを始めたのは
資金繰りに行き詰った不動産開発業者だけであり、
かつて山西省の石炭成金や温州商人が
「ここからここまで全部くれ!」
という勢いで買ったマンションが
中古不動産市場に大量に売りに出ている、
という話は聞こえてきません。

そういった意味では、成金たちの投機資金は
今後の市場の成り行きを静観できるぐらい余裕のある、
いわゆる「当面使う必要がないおカネ」
だったのかもしれません。

しかし、どうも安心はできないようです。

先日、中国の中央銀行である
中国人民銀行が発表した声明によれば、
中国の各銀行も私と同じ心配をしており、
住宅価格が20%下落した場合の、
「連鎖反応」が生じる可能性について
懸念しているのだそうです。

中国国家統計局の発表によれば、昨年10月、
中国の住宅価格は
昨年年初来初めて前月比で下落に転じました。
しかし、その下落の幅は、
新築で上海、広州が0.2%、中古で北京、広州が0.5%と、
いずれもそれほど大きなものではありませんでした。

中国の各銀行は、
今後、下落幅が大きくなっていき、20-30%にまで達しても、
銀行システムと不動産開発業者は持ちこたえることができる、
と考えています。
しかし、下落幅が20%を超えると、
「連鎖反応」のようにパニック売りが誘発され、
そのとき政府が「連鎖反応」をコントロールする
効果的な措置が取れるのかどうかについて、
各銀行は心配をしているのだそうです。

パニック売りが更に売りを呼ぶ「連鎖反応」。
まるで、原子力発電所の臨界事故を引き起こす、
制御不能の「臨界超過」状態のようです。

いくら不動産価格を一般庶民にも手の届く
合理的な値段まで下げる、といっても、
中国不動産市場が手の付けられない
パニック売りの「臨界超過」状態になって、
経済成長が急減速するようなことになれば、
一般庶民の生活も苦しくなりますので元も子もありません。

中国政府は今後、不動産価格抑制政策は堅持しつつも、
パニック売りの「臨界超過」状態を起こさせないように、
不動産価格を下支えする「制御棒」を上手に差し込みながら、
中国不動産市場をゆっくりとソフトランディングさせていく、
という難しい舵取りを迫られているのです。





←前回記事へ

2012年1月6日(金)

次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ