第1467回
「烏坎モデル」と中国の民主化

広東省汕尾市陸豊市烏坎(うーかん)村。

この人口1万3000人の片田舎の村が、
腐敗幹部を追い出して民衆が自治を行う
「烏坎モデル」発祥の地として、
今、中国中の注目を浴びています。

ことの発端は昨年9月。
同村で約40年間にわたって村のトップ・
党総支部書記の座に座り続けた薛昌氏(91歳)が、
村民の土地使用権を勝手に売却したり、
村長など村の幹部を選ぶ村民委員会選挙で
不正を行ったりしたため、
がまんにがまんを重ねた村民たちが、
「正規の陳情ルートによる
事態の打開は不可能である」と判断して、
独自の自治組織を結成したことに始まります。

その後、自治組織は薛昌氏を始めとする
村の共産党幹部全員の追い出しに成功しますが、
村の上部組織である陸豊市当局は、
自治組織の結成は違法であるとして
数千人の武装警察官で村を包囲、
自治組織の幹部を逮捕したり、
村への食料の輸送や電気、ガスの供給を止める
兵糧攻めなどを始めました。

こうした攻撃にも負けず、
自治組織は当局との戦いを続け、
その様子を微博(うぇいぼー、マイクロブログ)や
外国メディアの記者などを通じて発信し続けました。
そして、この自治組織の
正義の戦いの支持者が中国全土に広がり、
省や中央も無視をできない状態になったことから、
広東省のトップ・汪洋党委書記の指示で
省が自治組織との対話を開始、
最終的に村の党総支部書記に
抗議運動を主導した林祖恋氏が就任、
村民委員会の選挙をやり直すことで決着を見ました。

中国ではこうした腐敗幹部に抗議する暴動が
年間18万件も起きており、
その暴動を発端として腐敗幹部の不正が暴かれ、
政治の改善が行われる「暴動民主主義」も
中国全土に広がりつつあります。
そうしたあまたある暴動の中で、
今回の抗議運動が
「烏坎モデル」として注目されているのは、
自治組織を共産党組織に取り込む、という
今までになかった解決方法のためです。

今回の抗議運動、
一時は「正義の自治組織 対 悪の中国共産党」
という構図ができかけたため、
私も「このムーブメントが中国全土に広がったら、
中国共産党は危うい立場に立たされるのではないか」
と思っていたのですが、最終的には自治組織を
既存の共産党組織に取り込むという形で決着を見ました。
こうした決着が可能となったのは、
共産党中央も村民も
「腐敗幹部の排除と国内情勢の安定」という点で
利害が一致しているからです。

腐敗幹部の排除と
村民による共産党組織の自治を促進することにより、
現体制を維持して国内情勢の安定を保ったまま
中国を民主化していく。

「暴動民主主義」の進化版である「烏坎モデル」は
革命の混乱を経ずに中国を民主化していくための
1つのモデルになるのではないか、と私は思います。





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2012年2月27日(月)

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