第1508回
撤廃された中国の強制両替制度

私が10年前に中国で起業したときに、
非常に不安に思ったのは
人民元が外貨に兌換可能な
ハードカレンシーではないことです。

もちろん当時から外資企業に関しては、
きちんと企業所得税を払った後の利益は
外貨にして海外に送金することができたのですが、
それでも一生懸命稼いだ100元札が、
中国から一歩外に出たとたんに
ただの赤い紙切れに変わってしまう、
というのは大きな恐怖でした。
手持ちの外貨を使い果たしてしまえば、
いくら人民元をたくさん持っていても、
もう中国から一歩も出ることはできないのです。

このため、私は香港に会社を作り、
海外で発生した利益を外貨のまま
蓄積していくことにしました。
なぜなら、当時の中国の外国為替制度では、
せっかく海外で外貨を稼いでも、一度中国に入れれば、
強制的に人民元に換えさせられてしまったからです。

しかし、中国はその後、
世界の工場として輸出を大きく伸ばし、
世界一の外貨準備高を誇るまでになりました。
そして、入ってきた外貨を強制的に人民元に兌換させる、
という外貨準備を積み上げるための
外国為替政策が逆にあだとなり、
中国国内で過剰流動性によるインフレが
発生するようになってしまいました。

そうした状況を受けて中国政府は、
「国内企業や個人が何らかの形で得た外貨を、
国内で保有することを認めず、
国家が指定する金融機関で強制的に両替させる」
という強制両替制度を徐々に撤廃していきました。

先日の中国国家外貨管理局の発表によれば、
2009年以降、強制両替制度に関する
400件以上の関連規定が廃止、改定された、とのことです。
そして、現在、強制両替の関連法規は既に効力を失っており、
今後、執行されることはないのだそうです。

そう言われてみれば、いつの頃からか、
海外から外貨を中国の銀行に送金しても、
強制的に人民元に両替させられないどころか、
逆に、外貨を人民元に両替できるのは年間5万米ドル相当まで、
という両替制限をされるようになっていました。

さらに今では、人民元を持って日本に行っても、
中国銀行で日本円に換えてもらえますし、
銀聯カードを使えば、日本のモノやサービスを
中国国内にある人民元の預金で買うこともできます。

時代は変われば変わるものです。
「中国から一歩外に出たとたんに、
100元札がただの赤い紙切れに変わってしまう」
と怯えていた10年前の私がバカみたいです。

撤廃された中国の強制両替制度。
規制緩和により急速に自由資本主義化が進む今の中国を見ると、
人民元がハードカレンシーとなる日が来るのも
そう遠くはないのではないかと思えてきます。





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2012年6月4日(月)

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