第1522回
自分の臓器を売る中国の90后

先日、中国の公安当局は、
浙江省杭州市で臓器売買のアジトを摘発、
摘発を察知して逃亡した主犯格の男2人を
湖南省で拘束しました。

この摘発のきっかけとなったのは、
このアジトの存在を知った一般民間人の男性が
臓器提供者を装い15日間にわたって潜入、
インターネットで体験レポートを公開するとともに、
警察に通報したことでした。

男性のレポートによれば、
このアジトには2段ベッドがたくさん並んでおり
多いときには30人、少ないときでも十数人の臓器提供者が
腎臓移植のために待機していたのだそうです。
待機していたのは全員男性、
カードローンの返済に迫られるなどした
90后(じょうりんほう、1990年代生まれ)の若者が
多かったとのことです。

臓器提供者は1つ、3万5000元(43万7500円)で腎臓を提供し、
臓器ヤミ売買屋はその腎臓を
20-50万元(250-625万円)で患者に売りつけます。
こうした臓器売買は全国的なネットワークが形成されており、
雲南省の昆明や広東省の広州に連れて行かれて、
腎臓摘出手術を受ける人もいたのだそうです。

6−7年前、
「国内でドナーが現れるのを待っていたら死んでしまう」
ということで、多くの日本人を始めとする外国人が中国に行って、
腎臓や肝臓の移植手術を受けました。
しかし、その後
「札束を持った外国人がカネの力で中国人の臓器を奪っていき、
貧乏な中国人患者が移植手術を受けられずに死んでいく、
というのはけしからん」という世論を受け、
中国政府は中国国内での
外国人への臓器移植手術を禁止しました。

しかし、臓器の主要な提供元である死刑囚だけでは
国内の需要でさえも満たすことはできず、
「このまま死刑囚が出るのを待っていたら死んでしまう」
という中国人患者の需要に応える形で、
こうしたヤミの臓器売買ネットワークが
形成されていったようです。

「臓器を売る」という行為は、
従来はどこの国でも借金で首が回らなくなった人や、
貧乏でどうしても生活がやっていけなくなった人が
最後の手段として行う、という暗いイメージがありましたが、
今の中国では若者が欲しいモノを買うために臓器を売る、
という非常に軽いものになっているようです。

上記の90后の若者たちも、
自分の収入も考えずにカードローンで
欲しいモノをポンポン買った結果、
臓器を売るはめになってしまったのでしょうし、
今年4月には湖南省の17歳の高校生が
米アップル社のタブレット型端末「iPad」を買うために
腎臓を売る、という事件が発生しました。

私たちの感覚では
「親からもらった大切な体の一部を売るなんてとんでもない」
と感じますが、中国の90后の一部の若者にとっては、
親からもらった腎臓よりも「iPad」の方が
大切なのかもしれません。


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2012年7月6日(金)

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