コーヒー豆の焙煎には、ガス焙煎、炭焼焙煎、石焼焙煎など、さまざまな方式が存在します。なぜ私たちが過熱水蒸気焙煎を採用したのでしょうか。

過熱水蒸気という言葉にはあまり馴染みがないかもしれません。通常温度の１００度の水蒸気を飽和水蒸気、通常よりも高温の水蒸気を過熱水蒸気と呼び分けています。水蒸気は、１７０度以下の温度では湿度が低いほど乾燥効率が上がりますが、１７０度を超えると湿度が高くなるほど乾燥効率が上がる性質があります。１７０度を超えた加熱水蒸気は、湿度１００％で乾燥能力が最大になることが知られています。一般に水蒸気には加湿のイメージが伴いますが、高温の過熱水蒸気には物を乾燥させる特性があるため、焙煎が可能になります。

加熱水蒸気は、空気と比較して２つの特質があります。酸素濃度が低いこと、乾燥効率が高いことの２点です。これらの特質を焙煎に応用すると、コーヒー豆の酸化の抑制と、焙煎時のエネルギーの軽減が可能になります。過熱水蒸気の熱量は、同量の空気の数倍に達すると言われるほど、大量の熱エネルギーを蓄積できます。また、過熱水蒸気の伝熱には、対流伝熱（コンヴェクト）と放射伝熱（ラディエイト）と凝縮伝熱（コンデンス）が共に作用するため、空気よりも乾燥効率が高くなります。

雑味が少ないすっきりとした味わいを、過熱水蒸気焙煎のコーヒーに感じられることと思います。酸化を抑制できた分だけ、コーヒー豆が本来の成分を保持しているからでしょう。また、焙煎時間の短縮は、省エネルギーにつながります。この観点からは、過熱水蒸気焙煎は環境に優しい焙煎方式だと言うこともできるでしょう。

焙煎人にとっても、過熱水蒸気焙煎は気持ちの良い焙煎方式です。もとより焙煎は、コーヒー豆の水分を飛ばして風味を付ける技術です。この焙煎に際しては、コーヒー豆の成分を活かし、生豆の変身を手助けするという謙虚さが必要になるかもしれません。コーヒー豆の本来の力を引き出す過熱水蒸気焙煎は、焙煎人の心構えに合致しています。

これらが、私たちが過熱水蒸気焙煎を採用した理由です。