Qさんの本を読むのが何よりスキ
という戸田敦也さんがQライブラリーのガイド役をつとめます

第10回
思想が悪いと、退学されそうになりました。

邱さんが押し込められたのは麹町憲兵隊の留置場です。
単独の企てで、スパイの嫌疑が晴れ、邱さんは一週間で釈放されました。
憲兵隊を出ると、九段のあたりの桜が満開で
「自由っていいなあと思った」
と、のちの作品、『サムライ日本』に書いています。

また経済学部の定期試験で
「満州国の統制経済について述べよ」
という問題が出されました。
邱さんは当時、軍部から追放されていた矢内原忠雄教授の
『帝国主義下の台湾』と『満州経済論』を読んでいました。

矢内原忠雄教授は戦後、東大の学長にもなった人ですが、
日本の植民政策研究が専門で、いま、教授の業績について調べると、
津田塾大学の今泉裕美子さんは
「国の御用学問としてのそれではなく、
 日本の政策を社会科学的な分析を通じて
 帝国主義的、軍事的性格を持つものと特徴づけ、
 これを批判するものであった」
と論評しています。

その矢内原忠雄教授の著作を読んでいた邱さんは、
「日本の帝国主義」と書きたいところ、
「日本の海外発展主義」という言葉に置き換え、
「満州国の経済は日本の海外発展主義と
 現地の合弁資本の合作によってつくられたもので、
 その土地の利益と必ずしも合致するものではない」
と書きました。

表現を和らげたつもりでしたが、
「思想の悪い学生がいる」
との話が経済学部長の橋爪教授の耳に届き、
「心を入れ替えなければ退学だ」
といきまかれ、退学されそうになります。
恩師の北山富久二郎先生の助太刀で、退学はかろうじて免れ、
先生から
「信用のおけない奴に本心を打ち明けたりするな」
と諭されます。
邱さんは先生の好意に感謝しながらも、
「人を信用しないで、どうやって生きていけばいいのか」
と涙が止まらなかったそうです。


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2002年9月6日(金)

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