Qさんの本を読むのが何よりスキ
という戸田敦也さんがQライブラリーのガイド役をつとめます

第39回
小説「香港」は冷酷無残な地で逞しく生きる人たちを描いています

小説「香港」を邱さんは一週間あまりで一気に書き、
最後の60枚は一日で書き上げました
この小説の主人公は反政府運動のため香港に亡命した台湾人、
頼春木です。
頼春木が成功している同郷人と聞いて頼って行ったら
貧民窟で貧乏生活をしていたが老李です。
春木は老李に連れられて、露天商の許可のないままノシイカを売りましたが、
警察官に追いかけられ、逃げ遅れた春木は監獄に放り込まれてしまいました。
許されて帰り、「なぜ稼いだ金を持って、迎えに来なかったのか」と
毒づく春木に老李が語ります。
「『君にはすまなかった』と老李はもう一度繰り返した。
『しかし、我々は誰からも保証されずに自分の力で生きてゆかねば
ならないんだ。我々は自由を愛して故郷を捨てた。我々は自由を求めて、
この地に来た。だが、我々に与えられた自由は、
それは滅亡する自由、餓死する自由、自殺する自由、
およそ人間として失格せざるを得ないような種類の自由なんだ。
こんな生活をしていて、まだ善良なる市民の根性から抜けきれない奴は
よほど無神経な野郎だ。
我々には故郷もなければ、道徳もない。
こんな世の中ではそんなものは犬にでも食われろだ。
金だけだ。金だけがあてになる唯一のものだ』
『莫迦な』春木はむっと思わず口走った。
『ユダヤ人!貴様のような奴はユダヤ人だ』
『そうだよ。ユダヤ人だよ。ユダヤ人になることが僕の当面の目標だ』
老李はすこぶる冷静だった。」

この小説は春木がため息をつくところで終わっています。
「雨のそぼ降る街路の騎楼の下を春木はひとりで歩きはじめた。
老李を責める気持は不思議と涌いてこない。
人には皆それぞれの生き方がある。
今日は老李が去り、明日はやがてリリが去るだろう。
そのリリを責めることもいまの自分にはできないのだ。
いや、もともと人間は誰をも責めることはできないのだ。
それにしても、自由への道はなんと残酷な道であろうか」


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2002年10月5日(土)

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