Qさんの本を読むのが何よりスキ
という戸田敦也さんがQライブラリーのガイド役をつとめます

第62回
評論「日本料理は滅亡する」が物議を醸しました。

『日本人に見捨てられた日本料理』と題して書いた
邱さんの原稿が『日本料理は滅亡する』と改題されて
婦人雑誌に掲載され、物議を醸したという話をご紹介します。

「私にお金の話を書かせたのは嶋中鵬二さんだが、
私に『日本料理は滅亡する』という文章を
書かせたのも嶋中さんである。
『婦人公論』の編集長を兼任していた嶋中さんが私に
『日本料理は滅亡する』を書かせたのは、
多分、私が中華料理に詳しく、
中華料理の立場から日本料理を批評させたら、
面白いものができあがると思ったからであろう。
私は本当は日本料理が大好きで、
ことに年輪を重ねるに従って、他人からご馳走になるときは、
『日本料理にしてくださいね』
とわざわざ注文するほどになったが、
料亭で食べる日本料理の値段の高いことには
かねてから不満をもっていた。

そこで、『私から見ると日本料理には二つの特長がある。
まず美しい器にホンの少しずつ料理が出てくるので、
オルド−ブルか思って食べていると、つぎにも、
そのまたつぎにもオルド−ブルが出てくる。
いったい、いつになったら、メイン・ディッシュになるだろうかと
思っているうちに、終わってしまうというのが一つ。

もう一つは、庭の見える立派な座敷に通されて、
上等の座布団に座らされるのはいいが、
メニューに値段が書かれていないので、
最後の最後までお勘定がいくらになるのか、皆目わからない。
日本座敷は落着くというが、私のような貧乏性では、
たとえ他人に払ってもらう場合でも、おちおち座っておられない』
『日本人の平均的な収入に比して、
日本料理があまりにも高くなりすぎたので、
お年寄りと外人観光客だけが日本料理を食べ、
一般の日本人はカレーライスやラーメンを
食べるようになったから、このままの状態が続けば、
日本料理は日本人に見捨てられるだろう』と書いたのである。

私はこの一文に『日本人に見捨てられた日本料理』
という題をつけて渡したが、『婦人公論』の発行日に、
新聞を見ると、『日本料理は滅亡する』と大きな活字で
広告が出ていた。
これには私の方が度肝を抜かれたが、
しばらくして森田たまさんに会うと、
『金田中のご主人が邱永漢さんが
わかったようなことをいっているけれど、けしからん奴だと、
文句をいってましたよ」と笑いながらいった。
控え目な言い方であったが、その口ぶりから
私は日本料理屋のおやじさんたちにとっては、
内心おだやかならざるものがあるだろうな、と推察した。」
(「邱飯店のメニュー」)

さて早速反応がありました。
「さすがに少し刺激が強かったと見えて、
未知の人からかなり分厚い手紙が届いた。
開いてみると『日本料理は滅びない』と題して、
私の書いた文章に負けないくらいの分量で堂々たる反論が
延べられている。
その論旨は日本料理は次々と外国の調理法をとり入れて
日進月歩しているから決して滅びないというのである。
全く私が書いていることと同じなので、
私はあなたのご高説に賛成ですと返事を書いたが、
生憎と住所がしるされていない。」(『象牙の箸』)
住所がわからなければ返事の出しようがありません。
邱さん、歯軋りを噛んだに違いありません。


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2002年10月28日(月)

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