パリだけがフランスではありません

第57回
「ワインは文化」の国の変化

第51回のなかで、
さすがのフランスでも
「ワインを水代わりに飲む」意識が変わってきていると書きました。
実際その変化は
バーやビストロの売上げ減少に数字として現れています。
地域によって差はあるものの、
ここ2〜3年で5〜20%も下がりました。

その原因は、健康指向より飲酒による交通事故の増加から
取締りが強化された事にあったのです。
40年前は、車も人も今よりずっと少なく
(今でも人口は日本の約半分ですが)、
交通の取り締まりはあってないようなものでした。
そしてつい最近まで、
日本と比べてけっこう甘かったような気がします。

オリヴィエのおばあちゃまは、
1930年代から車の運転
(当時女性が運転するのは大変珍しかったそうです)をしていました。
戦後もずっと、車には必ず余分なタバコを1箱置いていたそうです。
なぜなら万一ジャンダーム
(軍に属する組織でポリスと呼ぶ市内の警察とは違うもの)に
止められた場合、
煙草を勧めればかなり融通が利いたからでした。

いつか岸恵子さんがテレビのインタビューで、
フランス時代の若い頃の話を披露していらっしゃいました。

真っ赤なスポーツカーを
フランス人女優さんと一緒に走らせていた時、
後ろから日本でいう白バイに止まるよう指示されたそうです。
そんなにスピードは出してないと思ったら、
自動車専用道路だから
のそのそ走ってはいけないと言われたそうです。
そこで
「あまりにヒナゲシがきれいで見とれていたの、ごめんなさい」
と言ったら、
いつの間にか白バイの姿が見えなくなり、
再び戻ってきた時はお巡りさんが
腕いっぱいに真っ赤なヒナゲシを抱えてきてくれたそうです。
「フランスらしいでしょう。
それにとってもかっこいいお巡りさんだったの」と。

どちらも実にフランスらしいエピソードで、
多分少し前まであり得た話だと思います。

2年ほど前、
日本では当たり前のスピード自動観測装置が
ようやく導入されました。
取りつけ当初はみんな慣れないから
違反切符が山と郵送される結果となりました。
同時に飲酒運転の取り締まりも厳しくなり、
ワイン作りに携わる人々から
「フランスの文化」を潰すつもりかと
本気で当局に抗議があったほどです。

確かにフランスのワインは文化であり、
バーもビストロもその地域の大切な社交場です。
それが今どちらも「現代社会」のルールの中で
危機に瀕しているといったら大袈裟でしょうか。
巷のフランス人の中(オリヴィエもそうですが)には
真剣にそう感じている人達が大勢います。
しかし人も車も増え、飲酒が原因の交通事故が増える限り
今までのような飲酒習慣に勝ち目はなさそうです。


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2005年5月27日(金)

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