誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第19回
子供を抱いてやる

娘も大きくなると、
気軽に抱いてやるというわけにもいかなくなる。
外国のTVドラマなどを見ると
父と娘がハグし合い、
キスを交わしているシーンがよく出てくるが、
キスはともかく、
日本人の父娘も軽く抱き合うくらいならやればいいのに、
といつも思う。
抱き合うことはとても大切なことだからだ。

わが家の娘二人は保育園で育った。
当時、私の住む町には
「保育園育ちの子は非行に走りやすい」
などと唱えていたおバカな市議会議員がいたものだが、
夫婦共稼ぎでは子を保育園に預けるしか術はない。
同じ会社で机を並べていた私たち夫婦は、
娘を保育園に送り迎えすることが毎日の日課となった。

仕事中、しばしば園から電話がかかってきた。
子供が熱を出したから至急迎えに来い、というのである。
当時、37℃以上の発熱があると登園禁止の決まりがあり、
在園中に熱を出すと、すぐ勤務先に連絡が来た。
そのため、子供に解熱剤を飲ませ、
むりやり園に預けていく親もいた。
事情を察すれば、親をむげには責められない。

仕事が忙しいときは、すぐ引き取りに行けない。
保母に懇ろに頼み、
それでも急いで仕事を切り上げ家路を急ぐ。
あわてて電車に乗り込むが、
娘の淋しそうな顔が目の前にチラチラ浮かび、
思わず鼻の奥がツンとなる。
心の中で娘に詫びつつ、息せき切って園に着けば、
うちの子だけが取り残され、
布団の上に淋しく寝かされている。
娘に呼びかけてやると、
力なく振り向いた顔にふっと輝きが広がる。

(ごめんよ、遅くなってごめんよ……よく頑張ったね)
心の中で呟く。
保母に何度も頭を下げ、急いで帰り支度をする。
そして私は、娘をそっと抱いてやる。
抱いてやると、幼な児の安堵しているようすが
身体を通して伝わってくる。
心臓の鼓動まで感じ取れる。
私はしばらくじっと抱きしめてやった。

子供を正しく育てるのはそう難しいことではない。
子供のことを親がどれほど大切に思っているか、
かけがえのない存在だと思っているか、
折々に伝えてやればいい。
親から愛されているという確信さえ持てれば、
子は決して道を踏み外さないものだ。
子供はできるだけ抱いてやったほうがいい。
抱くとふしぎに心が通い合う。


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