誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第108回
「表へ出ろ!」

私は小心者のくせに喧嘩っ早いところがあり、
すぐ「表へ出ろ!」と一声吼えるクセがある。
近頃はとんとご無沙汰だが、若いころはよく喧嘩をした。
飲み屋で独り飲んでいて、面つきのいけ好かない奴がいると
「表へ出ろ!」、
仲間同士で意見が対立しても
「表へ出ろ!」。
で、しょっちゅう表に出ていたわけだが、
威勢よく飛び出すものの、
ギュウとのびてしまうのは大概私のほうだった。
喧嘩っ早いが、負けるのもまた早かった。

ほんとは裏から逃げたいのだけれど、
「表へ出ろ!」と言った手前、逃げるに逃げられない。
酔余の戯れで喧嘩を売ったはいいが、
相手をまちがえてしまうことがよくある。
よりによって絶対に勝ち目のなさそうな相手を
ご指名してしまう場合だ。
こんなときはほんとうに困る。
酔いなどいっぺんに醒めてしまう。
数分後、私はボロ布のようにのされ、
道端にうずくまることになる。

こんな情けない私だが、ひとつだけ他に誇れるものがある。
どの喧嘩も素手でやったことだ。
それも一対一で。
一度だけチンピラとやり合い半殺しの目に遭ってしまったが、
あれは相手の卑怯な反則による負けだった。
私の髪の毛を終始つかんで離さなかったのだ。
髪をつかまれると、ほとんど自由が利かなくなる。
だから正統な喧嘩では禁じ手になっているのだが、
あの筋の連中は喧嘩のプロ、
勝つためなら、どんな汚い手でも使ってくる。

暴力を憎む世の女性たちの多くは、
こうした話に眉をひそめることだろうが、
喧嘩を頭ごなしに野蛮と決めつけるのは間違っている。
《人間は負けるとわかっていても戦わねばならぬ場合がある》
とは詩人バイロンの言葉だが、
当節は、負けるとわかっている戦いは避けるに如くはない、
と考える利口者の天下だそうだ。
この手の利口者を、昔の人は「臆病者」と呼んだ。

突然、野蛮な喧嘩の話を持ち出したのは、
新聞に
『決闘:ルール決め殴り合い、少年12人逮捕』
と見出しが躍っていたからだ。
髪の毛は引っぱらない、などとルールを決め、
一対一で殴り合ったというのだが、
残念なことに決闘は100年以上も前の
「決闘法」により禁じられている。
なんとも無粋な法律だが、
私はちょっぴりこの少年たちを見直してしまった。
決闘! ああ、なんと血のたぎるような響きだろう。
でもボロ布はもうごめんだから、
「表へ出ろ!」は禁句にしている。


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