誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第112回
富めるは智に害あり

昔の主婦は大変だっただろうな、とつくづく思う。
電気洗濯機などまだなかったころ、
母は家族七人の汚れ物を洗濯板と亀の子石鹸で洗っていた。
電気釜もないから、へっついに羽釜でめしを炊いていた。
冷蔵庫代わりにスイカは裏庭の井戸で冷やし、
掃除道具はもっぱら箒とはたきと雑巾だった。
風呂は薪で焚き、その薪を割るのは子である私たちの仕事だった。
概して、子供たちはよく家の手伝いをした。

父の稼ぎだけでは生活が苦しいので、
母は昼間は事務員として働き、夜はせっせと内職に精を出した。
記憶にあるのは造花づくりの内職で、
あれでいったいどれだけの手間賃にありつけたものか。
裸電球の下で、よく母の内職を手伝ったことがあるが、
今思い出してもひとしお侘びしさがこみあげてくる。
しかし、借金取りに追われる日々にあっても、
母はふしぎに明るかった。
まるで貧乏こそが母の活力源であったかのように。

家貧しくして孝子あらわる、という。
孝子どころか不肖の息子だった私には、
貧乏人の負け惜しみのようにも聞こえるが、
一面の真実を突いていることはたしかだろう。
思うに日本が貧しかったころの子供のほうが、
金満ニッポンの現代の子供たちより、
人間としてはいくぶん上等だったような気がする。
上等の中身は、長幼の序や礼節をわきまえ、自立心に富み、
他人への思いやりがあって、肉体も精神もふやけきっていない、
といった事どもだ。

数年前のこと、
某有名女優は高校生の息子に毎月40〜50万の小遣いを渡していた。
ところがこの息子は度重なる覚醒剤パーティを開いたかどで、
警察にしょっ引かれるという不始末をしでかした。
また最近では、複数の少女に犬の首輪をつけて
自宅マンションに監禁し、
「ご主人様」と呼ばせ暴行を繰り返していた男が捕まった。
この男も実家が金持ちで、月に40万円の仕送りがあったという。
その金で酒池肉林のハーレムを作り、
1000本にも及ぶ通称エロゲー(エロゲーム)を
買い込んでいたのである。
貧乏人のひがみで言わせてもらうと、
子供にモノと自由をふんだんに与えると、ろくなことにならない。
昔の人は「若いときの苦労は買ってでもせよ」といった。
だが今どきの親は、要らぬ苦労はできるだけ避けよ、
と教えている。
私が「今人」より「古人」の言を尊重するゆえんである。


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