「骨董ハンター南方見聞録」の島津法樹さんの
道楽と趣味をかねた骨董蒐集の手のうち

第71回
商品学(カンボジア編)
3. 石像−地雷原の先は!

カンボジア美術の白眉は
なんと言ってもヒンドゥーや仏教美術の石彫だ。
今のベトナム・カンボジア国境近く、
アンコール・ボレイ付近のプノム・ダの丘に
5世紀ごろ巨大な横穴を穿ったヒンドゥー寺院が築かれている。
僕も赤土の平地にぽつんと聳えるプノム・ダの丘に登った。
そこらここらに髑髏マークの縄張りがしてある。
地雷危険地帯の物騒なところだった。
前を行く案内の百姓が
「私の足跡を踏んでついてきてください」
と何回も念を押すほどの道だった。

ここから運びだされたハリハラ神
(ヴィシュヌとシバ神の合体神)が
パリのギメ美術館に収蔵されているが、本当に素晴らしい。
さらにカンボジア中部、コンポントム州、
プラサット・アンディエート寺院から発見された
7世紀のハリハラ神がある。
それをプノンペンで始めて見たとき
僕はあまりの神々しさに声を上げて泣いた。
ちょうど素晴らしい音楽を聴き感動する、そんな気持ちだった。

誰でもこんな神像にめぐり会うと欲しくなるのだろう。
ジャングルの中に蛇行する河川に筏を浮かべ
フランスの探検家が石像を運び出す場面を
エッチィングで表したプリントがある。
150年も以前、マラリヤやコブラなど様々な困難を乗り越え、
古い崩れ落ちた寺院からパリに運ぶ一こまを描いたものだ。

フランス植民地時代、
分けてもアンコールワット発見以後の100年間に
多くの石像の流出があった。
それらの作品は今日タイやフランス、アメリカなどで
美術館に蒐集されているか、
個人コレクションとして秘蔵されている。
時折売りに出されるがそれらは天文学的な値段が付いている。
しかし、素晴らしい6世紀から13世紀頃のクメール彫刻の逸品が
今また、アジアのマーケットに
いろんな理由があって出現している。
美術コレクターにとって
こんなチャンスは二度と出会えないだろう。

しかし、クメール美術は150年ほど前から
恐ろしいほど上手な偽物が出回っている。
誰もが知っているいくつかの著名な美術館の収蔵品にも
僕の鑑定では、偽物が入っている。
いつの日にかアジアの美術大国日本で
クメール美術の大シンポジウムでもやれば楽しいだろう。
それをきっかけにクメール美術の研究が一挙に進むだろう。
僕はその時までにしっかりとしたコレクションを構成し、
研究をしたいと思っている。

それにヒンドゥーの石彫神像を部屋に置き、
観葉植物を入れると一変に部屋の空気が変わり
10世紀の世界に誘ってくれる。
この気分は何物にも変えがたい。

 

アンダーナリシバラ
10世紀 プレループスタイル
クブラフマー
10世紀 プレループスタイル

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