「骨董ハンター南方見聞録」の島津法樹さんの
道楽と趣味をかねた骨董蒐集の手のうち

第103回
商品学(インド編)
心満たされるマトゥーラの仏陀

2世紀マトゥーラ座仏

インドで最も古い石造仏はマトゥーラの作品である。
寺院やストゥーパの基壇の装飾として
仏陀や仏伝が刻まれている。
仏像が最初に彫られたのはパキスタン、
ガンダーラ地方でそれは1〜2世紀頃だ。
マトゥーラではそれをやや下る
2〜3世紀頃に仏像が造られている。
学説によればマトゥーラの仏像は
ガンダーラの影響をまったく受けず、
独自の発達を遂げたようだ。

マトゥーラはデリーから南東140キロくらいのところにあり、
クシャン朝時代にはインドの重要な拠点であった。
そのため仏教遺跡がこの地に数多くあったと思われるが、
イスラム教徒による破壊やその後の都市建設によって、
現在は当時の寺院などの遺跡は残っていない。
遺跡は今もマトゥーラの市街地の下にあって
調査するのが困難な状況だ。
マトゥーラ様式の石仏はガンジス川流域各地から
数多く出土しており、
かつては北部インド一帯に大きな影響を与えた。

ガンダーラ仏が
西洋的な顔立ち〈ギリシャヘレニズム風〉に対して、
マトゥーラはインド古来の伝統様式を持っており、
顔立ちなども現地人の容貌を表している。
堂々たる体躯、野性的な力強さなどは
インド仏像彫刻の表現様式を確立したもので、
後世の仏像彫刻の基礎となっている。

ガンダーラの黒色や緑色の石材に対して、
マトゥーラでは白い斑紋を有する赤色砂岩が用いられている。
インドに限らず石材の質は石彫作品にとって、
極めて重要な鑑定の要素である。
マトゥーラの作品であれば
赤色白斑文の石という風に覚えておくと良い。

画像1はマトゥーラ博物館蔵の2世紀の仏陀像であるが、
堂々たる身体の線に薄い衣を右肩から纏った
最初期の作品である。
全面に白い斑紋が見られるが、
その材料は近郊のシークリー山の赤色砂岩だ。
近くのアグラ城などの石材も
仏像と同様この石が用いられている。
石でありながら暖かい雰囲気が感じられる。

このマトゥーラ彫刻の美しい仏陀や、仏伝彫刻は
インド美術の精華ともいえるものである。
顔の特徴は目を見開き、
ぷっくりとした唇はまるで血が通った人間のようである。
釈迦族の王子であった姿を髣髴とさせる気品を備えている。
このような像を見ていると
不安や浮世のしがらみから開放される。
あなたも一体いかがかな?

2,3世紀マトゥーラ仏陀立像

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