「骨董ハンター南方見聞録」の島津法樹さんの
道楽と趣味をかねた骨董蒐集の手のうち

第114回
<とぴっく10>
脚下照眼―気の変わらぬうちに支払いを

蔵の逸品(その3)初期伊万里皿吹墨の兎

「あんた、値段をつけて。専門じゃないから」
とYさん。
「30万でどうですか?」と僕はよ〜く考えて言った。
安すぎて断られては2度とチャンスはない。
高く買っても馬鹿らしい。
彼は僕の顔をあきれたように見ていた。

しまった。
1枚50万くらいと言ったほうがよかったか、
と悔やんだがもう言い直せない。
「そんなボロ皿見当違いをしたらあかんよ。
 30万も出せば100枚ほど買えるのと違う?」
と言い、見立ては大丈夫か、と言うような顔をしている。
しかも彼は1枚ではなくて
10枚で30万と受け取っているのようだ。
そう言われると心配になってきて、
もう一度しっかりと見直したのだが、
初期伊万里で最も人気のある吹き墨の絵付だった。
それに傷けもない。

「いいです。1枚30万円でもらいます」とはっきり言った。
「えっ!1枚30万か」
一枚30万円と聞いて、彼はちょっと考え込んでいる。
そして、
「一番いいのと一番悪いのとを外して、8枚持って行っていいよ」
と少し慌て気味に言った。
気が変わらないうちにと
8枚の皿は早々に新聞紙をもらって包んだ。
それに手持ちの5万円のお金を
彼に手付けとして無理やり受け取ってもらおうとした。
さすが旧家の当主、
お金を渡すと「いやいや」と言ってなかなか受け取らない。
それをなんだかんだといって頑張った。
受け取ったお金をYさんは胸のポケットに入れつつ言った。

「島津君、残りのお金は僕に直接渡してくれる?」
「はぁ?」
「女房がうるさいからね」
こんな大きな家に住んでいても難しいことがあるみたい。
「いいですよ。じゃあ明日直接持ってきますから」
「すまんな」
彼は確か養子と聞いた。


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