「骨董ハンター南方見聞録」の島津法樹さんの
道楽と趣味をかねた骨董蒐集の手のうち

第158回
骨董と人―売上2億円/日 マカオの大物

唐 灰陶加彩馬俑

香港ハリウッドロードの両側には、
大小の骨董屋がひしめいている。
通りに面した高級店には数千万もする殷、周の銅器や、
唐三彩の馬や駱駝も置いてある。
スポットを浴びて浮かび上がる品々は
チョッとした美術館のものより上かもしれない。
そして店内にはここを訪れた著名な政治家や、
財界人の写真が飾ってあったりする。
そんな高級店で仕入をしていては僕の商売は成り立たない。
昨今、この業界もかなり厳しい。
デフレが続き海外高、日本安の状態になっているからだ。
しかし、物価の高い香港での仕入でも、
大陸から直接運んでくるような店で買い付けをやると、
それなりに値打ちモノに出会うことがある。
今日もそんな店の一軒に入った。

「何か良いものないの?」と言うと、
「少し待ってくれ。今面白いものを持ってくる」
と言って、せっかちな店主はどこかへ行ってしまった。
10分程して赤いバサバサの大陸のトイレットペーパー
(水に流せないヤツ)で包んだ荷物を抱えて帰ってきた。
この紙は実に埃っぽく手に付くと身体が痒くなる。
藁を原料にしていると聞いた。
紙包みを解き終わると北斎時代の牛俑が現れた。
長い天を突く角、背中の瘤、がっしりと踏ん張った足が感動的だ。

「幾ら?」と聞くとアメリカドルで9000ドルだと言う。
高級店に並んでいればこの値段でも安いと思うが、
この店は殆どの品物が500〜1000ドルくらいのものなので
「たかいなぁ〜。3000でどう?」と値切った。
「牛の尻を見ろ」と言う。
覗き込むと小さなドリルで開けた
直径1ミリくらいの穴が開いていた。
さらに店主は茶封筒中から、写真つきの証明書を取り出した。
香港大学の時代鑑定の証明書で、
北斎時代(AD550〜577)に掛かる1400年以前のもの
と書かれていた。

いつもは思い切り値引きしてくれるのに、
この牛はなかなか値段が下がらなかった。
1時間ばかり厳しい交渉をし、
ここが落としどころだと考えているところへ、
70歳くらいの痩せ型で背の高い男性と、
濃紺のスーツを着た若い女性の二人連れが入ってきた。

※マカオはカジノビジネスが1年で約50億米ドルといわれている。
 彼はそのカジノの経営者の一人だった。


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