また二、三日して、今度は私が彼女を食事に誘った。香港島側にあるパリジャン・グリルというフランス料理屋に行った。帰りに、私はポケットから真珠の首飾りを出して、「僕のプレゼントです」と言って彼女に渡した。家に帰って家族にそれを見せると、家中でちょっとした騒ぎになった。まだ知り合いになって間もない男が、香水かストッキングのようなつもりで、そんな高価なものをくれるのは不自然だ。もしかしたら、何か企みがあるかもしれない。「返したほうがいいぞ」と二番目の兄さんが言ったと、彼女の口からきかされた。
しかし、物議をかもしたのは彼女の家のほうばかりではなかった。私は十三歳の時から家を離れて、自分のことは何でも自分でやってきたので、何でも自分の思うようにすることになれてきた。単純で、世間知らずで、人に騙されやすい、と周囲には見えたらしい。その頃、私がよく遊びに行った台湾人で香港大学出身の蔡愛礼先生という開業医がいた。
私から事の経過をきくと、
「香港の人はちょっとやそっとのことで知らない人には気を許さない。それが娘を金回りのよさそうな外江(ゴイコンロウ・他所者)に嫁にやろうというのは、もしかしたら、娘に何か嫁にやれない理由があって、それを知らない外江に押しつけようとしているのかもしれない」
と私に警戒するよう促した。
「嫁にやれないような理由って、たとえばどんなことですか?」
と私はききかえした。
「いまつきあっているお嬢さんがそうだといっているわけじゃありませんよ」
と蔡医師は念を押してからこう言った。
「たとえば、結婚に失敗して出戻ったとか、何か争いに捲き込まれて、トラブルを起こしたために、自分たちの周囲では縁遠くなっているとか・・・・・・」
「そういうことなら、心配要りませんよ。自分でどんな人か判断できるつもりだし、それに自分自身がそうまともな人間でもないんですから」
と私は弁解した。
「まあ、それならいいんですが、香港というところは、どんなトリックもあり得るところですから」
と蔡先生は私の単純さが如何にも気になるようだった。
「いまの邱さんは若くて立派なマンションに住み、自動車を乗りまわしている。金離れも悪くない。こいつはいい鴨だと思っているかもしれませんよ」
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