小説家を志して再び日本へ 大円団、戻ってきた花嫁

結婚式の終わったあと、花嫁を強引に連れ去られた私は、とうとう夜が明けるまで一睡もしなかった。こんなことになるとは思ってもいなかった。
直接のきっかけは大衿という花嫁のそばについて花嫁の代弁をするバアさんを私が断わったことだった。断わったといっても、結婚式に立ち会うのを断わったわけではない。披露宴の間中、お客に花嫁の代わりにお茶を注ぎ、お世辞をたらたら言いながら、チップをせしめるのを私はジッとこらえていた。
お客のたくさんいるところでは、潘家の顔も立てなければならないと思ったから、大衿のやるままに任せた。しかし、そんなバアさんに家までついて来られて、朝から晩までつきまとわれたのではかなわないから、宴会場から出るにあたって丁寧に断わった。それなのに花嫁のお母さんが、「自分の顔を立てない」と言ってわめき出すし、花嫁の兄弟姉妹まで私に悪態をつくし、とうとう私の家の玄関口に立ち塞がって花嫁を連れて帰ってしまったのである。
何もそんなことまでしなくてもよさそうなものだが、習慣の違った環境に育った者が喧嘩になると、感情的になって前後の見境もつかなくなるのであろう。とうとう私は夜が明けるまでまんじりともしなかったが、朝になると事情をきき知った阿二姐が顔色を変えてとびこんできた。
「いったいどうしてこんなことになってしまったのですか?」
ときくから、私がこれまでの経過を述べると、
「三姑娘(サムクウリヨン・三番目のお嬢さん)がそんなことをやるとは思えません。あの家では三姑娘が一番気立てのやさしいお方ですから」
「それはそうかもしれないけれど、あの兄弟の粗野なのにはあきれてしまった。一番上の姉さんが気性が激しくて、二番目の兄さんが怒りっぽいのは僕にもわかっているが、よそから嫁に来た長兄の姉さんまで、三姑娘、このまま帰らないと、もう家には入れないよ、と叫んだのにはあいた口がふさがらん」
「それよりもお父さんのほうが悪いと思いますよ」
と私の姉が脇から口を出した。
「若い者が興奮して喧嘩になったとしても、一家の長であるお父さんが黙って見ているという手はないでしょう?」
「さっき私が行きましたら、老爺(ラウエー・家長の尊称)も自分が悪かったと言っていましたよ。こんなことになったんじゃ世間体も悪いし、娘の将来にだって響きます。ですから、気がすまないかもしれませんが、そこのところをなんとか折り合っていただけませんか?」
「折り合えと言っても、僕は別にどうとも思っていないよ。僕のほうで追い出したわけではなくて、自分で勝手に出て行ったのだから、思いなおして自分で帰ってくれば、僕のほうとしては別に拒みはしない」
「リクツはおっしゃるとおりでしょうけど、向うにもメンツはあるでしょうから」
「向うにだけメンツがあって、僕にはメンツはないとでも言うのか」
と私はこわい表情になった。
「自分で歩いて出て行く足があるのなら、歩いて帰る足もあるだろう。どんなことがあっても僕が向うの家まで迎えには行かないと、言ってちょうだい。一度はちゃんと迎えに行ったんだから……」

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