今でも女房が時々、思い出して、その時の私の偏執ぶりを蒸しかえす。もう百冊に及ぶ単行本ともなると、さすがに処女出版の頃の感激はないが、それでも本の表紙をさすりながら、はじめての本を出した時のことを思い出す。
本を出すということは、読者の一人一人に訴えようとすることだから、はじめてそれをやろうと考えた時と同じ気持ちでなければならないぞと改めて自分を戒める。そこには、すでに三十年の歳月がたっているが、自分が今でも最初の時点に立っているような気になる。つまり老練さとか、馴れあいとか、妥協とか、ごまかしとかは雲の彼方へと消え去って、空は昔のように晴れあがり、時間の経過はそこには見られない。いつまでも、同じ初心の自分がそこに立っていて、マントを着た高校生か、角帽をかぶった大学生のままでいるような錯覚を起してしまうのである。
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