しかし、もう私には青春が再び戻ってくるわけがない。私には青春から一歩一歩遠ざかって行く未来があるだけである。にもかかわらず、私がいつまでも大学生のような気分でいられるのは、私が「初めて大学生になった時」「初めての一冊目の本を出した時」「初めて株を買った時」のまま、感激を忘れない人生態度にとどまっているからである。
時間というものは無残に過ぎ去って行く。時間だけはお金のように貯めておくことができない。猛烈に働いても、無為にすごしても、同じように年をとる。その中にあって、「時間を上手に使う法」も必要だが、「時間を超越して生きる法」も同じように必要なのではないかと思う。
昔の人間は今の私たちよりも、単調な環境に生きていた。行動の半径も私たちほど広くはなかった。しかも平均寿命は、私たちより短かったから、時間の効率は決してよくなかったに違いない。しかし、人間はどの時代に生きても、その時代なりに、時間とか人生とかいうものについて真剣になって考えたと思われる。単調な時代に生きた人は、私たちから見れば、一日一日が長い人生だったはずだが、その一日一日が須臾(しゅゆ)の間に消え去ってしまった。そうしたはかなさを超越するためには、やはり時間をこえる無限の世界に生きるよりほかない。
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