朱は家へ帰って、あでやかな姿を見せると、夫は上から下までジッと見つめながら、さもたのしそうに談笑をした。その様子がふだんと違っていたが、朱はまだ日も暮れないのにたちあがって自分の部屋へ入って中から鍵をしめてしまった。間もなく洪がやってきて戸を叩いたが、朱がどうしても起きないので立ち去ってしまった。
次の日も洪はあれこれ食い下がるので、朱は「独り寝の習慣がついたので、そっとしておいてほしいわ」と言った。日が傾くと、洪は先に妻の部屋に入って待っており、明りを消すと、まるで花嫁でも扱うように、契りをかわし、明日の晩の約束もしようと言った。しかし、朱はきき入れず、三日に一ぺんをきまりにしてほしいと言った。
半月たってまた恆娘をたずねると、恆娘は戸をしめて、小さな声で、
「さあ、もうこれからは男の独り占めができますわ。あなたは美しい人だけれど、セックス・アピールはもう一歩よね」
そう言って、ウインクのしかたまで何回も何回も実地に教えてくれた。
「帰ったら、鏡を前によくお稽古をなさいな。ほかに手はないんですよ。寝てからあとのテクニックは臨機応変で、口でいちいちこうだとは申せませんわ」
教えられた通りにやると、亭主は大へん悦んで、日が暮れる頃になると、向かいあって談笑をし、半歩も彼女のそばを離れないようになった。
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