安いということはもはやデパートの狙いではない。お客のニーズに合い、喜んで買ってもらえる商品は何かということになると、少々高くても仕方がない。というよりむしろ高いほうがよい。その代り、そこへ行けば欲しいものが揃っているとなれば、それだけで商売は成り立つ。では、そうした品揃えをデパートの仕入部が一つ一つメー力ーにあたって納入してもらえるかというと、出店をつくってもらえればその日からでも仕事になる商売もあるが、問屋に頼まなければ、とても品揃えのできそうにない種類の商品もたくさんある。
たとえば櫛のメー力ーと歯ブラシのメー力ーはメー力ーが違う。櫛にも何百というメー力ーがあり、一つ一つデザインが違う。まさかそれらを一つ一つそのメー力ーに注文し、一ダースとか、二ダースを補充してもらうわけにはいかない。そういう商品にはそれなりの専門問屋があって、メー力ーが客細であればあるほど問屋が主導権を握っている。メー力ーが多ければ、どのメー力ーの商品を仕入れるかは問屋がきめることができる。メー力ーは自分たちのつくった商品を各地にある複数の問屋に納入する。専門問屋は化粧用品なら化粧用品、台所用品なら台所用品を一通り揃えて、それを小売店にキメ細かく卸していく。現金問屋といって、小売商人が現金を持って仕入れにくるシステムの問屋もあれば、間屋のほうが小売店を巡回して注文の品物を納入してまわるシステムのところもある。現金間屋は配達に行かない代り、貸し倒れの心配もないから、その分だけ安く卸すことができる。反対に、ご用聞きや配達をしてまわり、しかも支払いが手形であってみれば、その分がどうしても価格に上乗せされる。また大抵のデパートや小売商は返品をするから、返品による損害もコストに入れなければ、間屋やメー力ーは成り立たない。
そういう費用を全部含めると、小売業者も卸業者も生産業者もそれぞれにかなりのマージンをとらないとやっていけない。たとえばデパートで一着の洋服を五万円で売っているとする。デパートのマージンは四○%というのが常識だろう。メー力ーが直接、納入している場合でも、洋服のメー力ーは、自分でつくっているわけではない。いわゆるファッション・メー力ーも実質は間屋、もしくは商事会社であって、三万円で納入してなおかつ返品の山のあることを考えたら、そのまた半分か、少なくとも六○%くらいでつくらなければとても引き合わないであろう。
そうなると、材料とか、縫製に支払われるコストはいよいよ窮屈なものになり、洋服地のメー力ーや縫製業者の工賃は徹底的な合理化によってやっと商売が回転できるギリギリのところまで抑え込まれる。その代り販売による危険負担は問屋もしくは小売店、なかでも問屋が一手に背負うことになるから、最終消費者が支払う価格中、最も大きな部分が問屋と小売店に支払われ、服地商や縫製業者の受け取り分はうんと少なくなる。
洋服のようなファッション製品は売れ残った場合の保険分がかなり含まれているから、中間業者のマージンは平均より高いが、一般に問屋が責任をとる日本のような流通システムでは、流通業者におちるマージンは平均して高い。輸入品のコストがいくら下がっても、小売価格が下がらないのは、こうした流通経路に乗って物が売られているからである。日本のメーカーはコスト・ダウンにコスト・ダウンを重ねて国際競争力を備えるようになったが、問屋は今のままではとても外国に出て競争のできる立場にいないと言ってよいだろう。
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