ただし、紙幣の普及は銀行制度の発達とほぼ同じ時代に起っているので、信用の創造を伴い、実際に銀行の現金がなくても、銀行がその保証をすることによって、振り出した小切手の決済ができれば、銀行がお客から預かって保有しているお金の何倍もお金を動かすことができるようになった。だから中央銀行が発行している紙幣の総額がいくらに達しているとか、各銀行の預金総額がいくらあって、預貸率がどうなっているかといった数字を一応の目安にすることはできるが、それが物価とどういう因果関係にあるかを厳密に測定することはできない。物価を動かすファクターは他にいくつも考えられるが、お金の数量の増減や回転率は、お金の数量以外のファクターによって影響を受けることが多い。
たとえば、景気がよくて生産が活発なときは、紙幣がたくさん発行されていようとなかろうと、物がいくらでも売れるから、物価が下がることはあまり考えられない。反対に不景気なときでも、物が売れないことを見越してメーカーが生産を抑えれば、滞貨の山はなくなるから、売上げは伸びないけれども、物価も下がらない。またいくら景気がよくても、消費の伸びに生産が追いつけば、値段が上がるとは限らない。そのうえ、為替の動きとか、政情不安とか、他の要因を考慮に入れると、物価が下がることもあれば、逆にインフレが進行することも考えられる。とにかく、貨幣の発行数量だけをみて、物価の動向を予言することはできなくなっている。現にレーガンが統治した八年間に、アメリカは世界最大の債権国から世界最大の債務国に転落したが、物価はほとんど上がらなかった。これだけ為替相場がドル安に傾けば、輸入品の値段は暴騰しそうなものだし、アメリカのように食糧以外の日用品を輸入に依存している国では、日用品が上昇してアメリカ庶民の生活は苦しくなりそうなものである。ところが、貿易収支が大赤字になっても、アメリカではデフレにならなかったばかりか、為替相場がドル安に動いても、
輸入品の値上がりによるインフレも起らなかった。
まず貿易収支が赤字になっても、アメリカは不足分をドルの印刷で賄った。お金を受け取った輸出超過国はそのお金を自国で死蔵、退蔵するわけではなく、そのままアメリカに残して運用するから、アメリカでも通貨の不足は起らない。それならば、お金があまってインフレを起しそうなものだが、政府が国債を発行してこれらの資金をごっそり吸収するので、あまったお金はそっくり国に回収されてしまう。おかげで、少なくともこの八年間は不足分を紙幣の乱発、もしくは信用の濫創造で補ってきた割には
インフレにもならずにすんでいる。
その代り貿易収支の不足分に見合う数字の対外債務が発生して、アメリカはその分の金利支払いにも追われる立場になってしまった。将来、これらの債権者が一斉にアメリカからお金を引き揚げるような動きになるとか、あるいは、不動産投資やM&Aに集中することになれば、多分、そういうことを意識的に避けようとするだろうけれども、一挙に政治間題化することもないとはいえない。

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