なぜアメリカは大赤字にもかかわらず物価が上がらないのか

また一段とドル安によって、輸入商品のドル建て物価が上昇するようなら、輸入にストップがかかり、その分だけ輸出が促進されて貿易収支のアンバランスは改善される方向に向かうことも考えられる。少なくとも過去の国際貿易理論はそういう具合に説明をしてきた。ところが、ドルの対外相場が下がりはじめると、たとえば一ドル三六○円だったのが二四○円までドル安になると、日本の輸出メーカーや商社は一ドルで売って三六○円の代金を受け取っていたのが二四○円しか受け取れなくなったのだから、たちまち大赤字になってピンチにおちいってしまう。円高によって引き合わなくなった輸出メーカーは、倒産するか、輸出を見合わせるようになるし、どうしてもその商品をアメリカが欲しがれば、日本側のドル建て値上げ要求をある程度、のまざるを得なくなる。値上げを要求すれば、その分だけ需要が減ることが考えられるから、
アメリカの輸入は、国内物価の上昇を伴った形で減少の方向に向かう----
少なくとも今までのところは、それが経済学者たちのごく一般的な常識であった。
ところが、実際にドル安になってみると、アメリカの輸入業者は値上がりによる取引の減少を避けるために海外の輸出業者にドル建ての価格の据え置きをきびしく要求するようになったし、さらにドル安が起ってどうしても値上げせざるを得ない状況になっても、もし自分らの要求に応じないのなら輸入先を他の国に切りかえるぞと脅しをかけながら、最少の値上げにとどめさせた。一方、対米輸出に力を入れてきた日本やNIEsの国々の業者たちも、ドル安になったからといってすぐにも廃業や転業に追い込まれることはなく、死に物狂いのコスト・ダウンによって・ピンチを切り抜ける方法を選んだ。日本でいえば、一ドル二四○円前後で落ち着いていた為替相場が二○○円を割った段階でかなりの円高倒産が起るとみられていたが、ドル安がすすむにつれて、さらに一段とコスト・ダウンの努力が続けられ、倒産もしくは廃業はどうしてもコスト・ダウンのできない一部の業者に限られ、大半の輸出業者は、一ドル二一○円、二二○円になってもまだ輸出によって利益をあげることのできる体制を整えることに成功した。物をつくる値段や技術はかなり弾力性のあるもので、必要に迫られればいくらでも(といってはいささか誇張になるかもしれないが)、環境に適応して値下げのできるものであることを証明する結果になった。

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