先にも述べたように、為替相場が貿易収支のアンバランスを調整する機能は、理論上は考えられても、実際にはうまく作動しないから、ドルがさらに一段安になっても、対外債務は減るどころか、支払い利息のふえる分もあわせて、さらにふえ続ける。しまいには借金漬けになってしまって、ヒステリックな対外非難の声ばかり高くなり、今まで自由貿易を旗印にしていたのが、ついにスーパー三○一条にたよるようになり、輸入制限や罰金的関税や法律的制裁で出血を止めることとなる。アメリカの最後の手段は、日本その他の輸出黒字国に対する門戸開放の強制ではなくて、自国の門を閉ざすという保護貿易に逆戻りするだろう--と私は予想している。
もっともそこに至るまでに、さらにもう一段のドル安と、
対米輸出企業のアメリカ本土上陸が進行する。為替相場に貿易収支のアンバランスを調整する機能がないと私はいったが、もちろん、それはドル相場が七○円とか、五○円まで下がっても、日本の輸出メー力ーが輸出ができるということではない。二四○円から二一○円までの過程では、死に物狂いのコスト・ダウンのおかげで日本の企業はともかく一応は生き残ることに成功してきた。しかし、さらに一段ドル安が続けば、いくら「二十世紀の奇跡」の推進者でもいつかは行き詰まるときがやって来る。それを見越して日本の対米輸出で業績をあげてきた企業のほとんどが、将来のドル安とアメリカの輸入制限に備えてと、生産基地をアメリカ本土へ移すようになった。多国間の為替相場の変動は、物の動きを調整する機能を果たしているとはいえないが、資本の大移動を促す力のあることは、この十年来の日本企業の動きが示しているとおりである。
ドル安が進行するあいだ、ドルで生活をしている人々にとってさほど負担増はなかったが、ドルで自分たちの資金を保有してきた日本人やわざわざ日本円をドルに換えてアメリカの国債に投資をした日本の生命保険会社などは、莫大な為替差損を被った。しかしドルが下がれば下がるほど、日本円の値打ちが出てきたので、新しく円をドルに換えてアメリカで不動産や企業を買う人は、以前に比べてずっと容易になっている。
とりわけ貿易黒字が続いたおかげで極端な金あまりに見舞われた日本では、土地や株が異常な値上がりをしたので、日本人はほとんど何の努力もなしにアメリカ人に比べて相対的に資産をふやすことになった。自分たちの財産がふえたうえに、円高によって同じ金額で従来の倍も三倍もアメリカの土地や株を買えるようになった。日本や台湾のような自国紙幣の対外価値が上昇している国では、国内的にはほとんど何のトクもしていないが、外国製品や外国の不動産を安く手に入れることができるようになり、外国でその実力を発揮するチャンスに恵まれるようになった。アメリカのドルは国内的には昔と同じように通用しているが、海外で著しい目減りにあっている。日本の円も国内では一向にパッとしない点では同じだが、海外では強い通貨として以前に比して何倍も威力を発揮できる立場に変ってきている。

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