しかし、日本人にしてみれば、消費国に工場を建てるかどうかは死活につながる重大な選択である。どこの国も日本に対しては大幅赤字で、もう払うお金が底をついてしまっている。輸入代金を支払うために日本がもっと物を買ってくれなければ、日本からの輸入を制限しなければ成り立たないところまで追い詰められている。ある日、追い詰められたアメリカやヨーロッパの国々が日本からの自動車輸入を全面禁止するようなことが起ったら、それこそ日本人を繁栄させてきた経済の基礎そのものが崩壊することになりかねない。そんなことは絶対にないとはいいきれないから、日本の企業はまだ足元の明るいうちにその準備をしておかなければならないし、また現実の問題として日本の人件費がこれだけ高くなったら、現地生産に切りかえたほうが採算上、好都合なところまできている。
現にこの十年のあいだに、アメリカの市場を顧客としてきた日本のメーカーは、自動車、鉄鋼、家電、半導体のあらゆる分野で、アメリカに工場を持たない会社がないくらいになった。これは日本人の海外制覇の野望であるといえないこともないが、ここまで辿りついてきた道程をふりかえると、国際貿易への道がまず開かれて、その道をひた走っているうちに自然に辿りついた次のステップである。国際化時代の次のステップといってもよい。彼我の生産技術、生産能力、生産体制に格段の差が生ずれば、お金の払えなくなった国は門戸を閉ざすよりほかなくなる。個人の一人一人だって払うお金がなくなれば、物売りが訪ねてきても、門を閉ざし、フトンを頭からかぶって寝たふりをしているよりほかないだろう。それと同じように、物を買ってもらいたいと思えば、物を買ってもらいたい側が物を買う側の都合に合わせるよりほかなくなる。貿易収支に問題があるなら、貿易収支に影響しない形で新しい生産体制を整えるよりほかなくなる。かくてメー力ーは消費地に移動して現地生産をすることになる。

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