国民感情が壁になって経済の発展が足踏みをする


現地生産は国際化時代の次のステップである

日本の企業がアメリカに進出することを決定すると、それぞれの州で知事が先頭に立って歓迎の意向を表明する。何年にわたって州税を免除するとか、市場金利が年一○%なら、年六%で一件につき、1000万ドルまで工場建設の資金を貸すとか、さまざまの優遇借置もとられている。もちろん、広いアメリカには第二次大戦の傷跡が今だにうずいていて、日本人に敵意を抱いている住民の多い州もある。そういう州は日本人のほうも敬遠して寄りつかないから、日本企業は、ジョージア州とか、オハイオ州とか、コロラド州とか、カリフォルニア州とかに自然に集中してしまう。
工場建設が決まると、次は従業員の募集である。日本人の社員採用の仕方は、文化の違いからくる違いもあって、ときどきアメリカ人を戸惑わせることがあるが、概して好評である。『ニューズ・ウィーク』誌でも報道されていたが、あるアメリカ人が面接試験のとき、子供を連れていった。妻に逃げられて子供の面倒をみてくれる人がいなかったので、やむを得ず、そうしたのだが、おそらく不採用になるだろうと覚悟して出かけた。ところが、面接にあたった日本人は、子供に話しかけてくれただけでなく、終始、好意的で、やがて採用の通知がきた。アメリカ人からみたら、日本人は、求人求職と関係がないと思われる家庭内のプライバシーにまで立ち入って質間をする。求人になんでそんなことが必要なんだと腹を立てて帰るアメリカ人もあるが、日本人は企業は家庭の延長であり、家庭内の不和が、採用された従業員の精神状態や作業能力に影響すると信じているからで、従業員の一人一人の家庭の事情を知りたがる。
その代り、日本人にとって企業は「利益を追求するための精神的共同体」であるから、命令系統や上下の関係はきびしいが、社員食堂では工場長も一工員も同じテーブルで同じ食事をしているし、会社の都合で従業員を集団解雇するようなことはまずない。アメリカの企業なら一方的にレイ・オフをする場合でも、日本の企業では、ヒマなあいだに工場内の清掃や機械の整備をしておこうとか、それでも時間があまったら、窓ガラスをきれいに拭こうとか、庭の草刈りをしようとか、とにかく苦しいときは皆でガマンをしてピンチを切り抜けようという態度に出る。そういう恩情主義が長いあいだに現地の人たちにも知られるようになり、現地の日本企業ではストも少ないし、日本企業で働きたがる人もふえている。
もし日本の企業が進出しなければ、アメリカのどこかの企業がそこへ代りに進出してくれるわけでもないし、もともとその土地の人たちにしてみれば、ボスが誰であろうと働き口がふえ、収入があるようになればいいのだから、日本企業を差別待遇する理由はまったくない。アメリカ人自体が移民の子孫であり、いろいろな人種が混ざってできているのだから、人種的な違和感はあまりない。外国から商品を輸入することにも抵抗はないくらいだから、日本人がボスになって生産をすることに異論を唱える理由はないのである。

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