こうした強気の経営は、日本人がかつて経験したことのないものであった。東海道新幹線ができたら、既存の運送業やホテル業はあがったりになるのではないかとおそれおののく人たちが多かったが、新幹線ができると旅行者はうんとふえたし、新幹線のとまる町はどこも以前よりずっと繁盛するようになった。
こうした経験をくりかえすうちに、高性能の新鋭機械を取り入れると、商売が駄目になり、失業がふえるだろうと考える人は一人もいなくなった。事実、新鋭機械を設置するたびに、大量生産が可能になったり、コスト・ダウンがさらに一段とすすむようになる。すると一人あたりの生産性がグンとあがるようになるから、経営者も賃上げの要求に応ずることができるようになる。石油ショックの直後、不況のさなかでオートメ化が産業界を風靡したが、このときも「オートメ化が雇用を悪化させるから反対だ」と主張する労働組合は一つもなかった。「もしそうしなければ、国際競争に打ち勝っていけないだろう」といって、積極的に支持する意見のほうがずっと大勢を占めたのである。
どうしてそうなったかというと、労働力の生産性をあげることが問題解決のための第一の目標にされたからである。生産性をあげないで賃上げばかりやっていると、どこの企業も払うお金が底をついてしまう。反対に技術革新の進んでいる業種では、付加価値の追求とコスト・ダウンが同時に進行するから、何とか賃上げの財源に事欠かないですむが、繊維とか雑貨のように、製品の値上げが困難なうえに、手作業の部分が多く労働時間の短縮ができない業種では、たちまち行き詰ってしまう。そのためもっと労賃の低い地域に引っ越しをするか、転廃業を迫られる。一九七○年代になると、アメリカではコスト・インフレのために製造業から手を引く企業家が多くなったが、同じ理由から日本のメー力ーも、生産基地をもっと労賃の安い地域に移す傾向が出てきた。この傾向は日本の産業界にかなり深刻な打撃をあたえた。なるほど企業としては、工場を移すことによって余命を延長することができる。しかし、工場が外国に移転すれば、今まで働いてきた労働者はそれこそ死活の岐路に立たされたようなものである。国内の空洞化がすすめば、国としてもどうやってこれらの人々を養っていくかを真剣に考えざるを得なくなる。

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