プロが教えます!公認会計士
山田淳一郎さんのトクする税金の話

第45回
エンジェル税制

アメリカは「がんばろう」とする人を
応援する風土・仕組みができている、
それに対して、我が日本は「出る杭を打つ」と言っては
言い過ぎかもしれませんが、
「出る杭を応援する」といった風土・仕組みは乏しいようです。

アメリカはビジネスに成功した人が、
これから起業する若者を
「資金面」「経営ノウハウ面」から支援することが
日常茶飯事だそうです。
これが、アメリカのIT等新事業の創出、
経済活性化につながっているわけで、
遅ればせながら日本にも「起業家」を後押しする税制が
できつつあります。

個人の方(「エンジェル」と呼びます)が、
起業家(一定要件を満たした、株式公開を目指す未上場会社)に
出資した場合の税制措置です。

その税制措置は、
1.入り口(出資時点)での優遇制度、
2.出口(その出資が成功に終わったケースと、
  不成功に終わったケース)での優遇制度、に
  大きく分かれます。概要を説明します。

1.エンジェル税制「入り口」版
  個人投資家が株式投資で成功して得た資金の一部を、
  エンジェルとして「これからの企業」に
  投資する時の優遇制度で、
  平成15年度税制改正により創設されました。

  具体的には、平成15年4月1日以降払込みにより
  「特定中小会社」の株式を取得した場合には、
  その取得価額相当額を、
  その年の株式の売却利益から控除することができます。
  例えば、その年の株式売却利益が1,000万円の人が
  「特定中小会社」に700万円投資したら、
  その年の課税の対象とされる株式売却利益は
  300万円(1,000万円―700万円)になり、
  株式売却利益にかかる税金が軽減されます。

  一方、将来、投資したその「特定中小会社」の株式を
  売却する場合の「取得費」即ち売却原価は、
  実際の払い込み金額から、
  投資した年に株式売却利益から控除した金額を
  差し引いた金額になります。
  上記ケースでは、払い込み金額700万円全額を
  株式売却利益から控除しましたので、
  この「特定中小会社」株式の「取得費」
  つまり売却原価はゼロ円となります。

  従来からあったエンジェル税制は、
  将来投資が成功した、または失敗した時に受けられる
  「出口」制度であるため、将来よりは今投資した時
  「入口」に優遇制度があった方が
  人投資家のインセンティブになるであろう、
  との観点から創設されました。

2.エンジェル税制「出口」版
(1)成功したケースの税制措置

   これぞ、と見込んだ会社(社長)に対して出資し、
   その後、その会社の事業が成功して、
   予定通り株式公開を果たしました。
   このケースにおいて、出資した個人(エンジェル)が
   当該株式を売却した場合の税負担を軽くする制度があります。

   具体的には、平成12年4月1日から
   平成17年3月31日までの間に払い込みにより取得した
   「特定中小会社」の株式を公開前3年超所有し、
   公開後3年以内に売却した場合には、
   売却利益を1/4に圧縮して課税します(税負担5%)。
   なお、平成15〜19年の5年間については、
   10%軽減税率が適用されるため圧縮割合は1/2にとどまり、
   税負担は5%です)。

(2)不成功に終わったケースの税制措置
   見込んで出資したが、
   残念ながら不成功に終わったケースです。
   例えば、公開できず安い金額で株式を売却し
   売却損が生じた場合や、
   会社がつぶれて株式が紙くずになってしまった場合です。

   まず、公開できそうもないということで、
   エンジェルがその株式を売却し
   売却損が生じてしまった場合です。
   この株式売却損は同じ年の株式売却利益と相殺しますが、
   相殺し切れずに当該会社の株式売却損が残ってしまうと、
   通常では「未上場会社の株式売却損」であることから
   翌年以降に繰り越すことはできません。
   そこで、一定要件を満たす
   「特定中小会社」の売却損の場合には、
   その相殺し切れなかった株式売却損を
   翌年以降3年間繰り越すことを認めようという制度です。

   次は、その出資した会社が
   株式公開前につぶれてしまった場合です。
   出資者(エンジェル)にとっては売却損ではありません、
   「紙くずとなってしまった損」です。
   通常、会社がつぶれたことにより生じる「株式紙くず損」は
   税金計算上何の手当てもありません。
   これに対して、一定要件を満たす会社への出資については、
   「紙くず損」を「売却損」とみなすという取り扱いが
   措置されています。
   すなわち、その「紙くず損」は
   同じ年の株式売却益と相殺できますし、
   相殺後残った「紙くず損」は上記取り扱い、
   すなわち翌年以降3年間繰り越すことができます。

(3)エンジェル税制の適用対象となる会社(一定要件の概要)
   一定のベンチャー企業への株式投資が
   「エンジェル税制」の対象です。

   「中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法」に
   規定する特定中小会社が発行する株式を
   払い込みにより取得した場合に適用があります。
   その会社の要件を紹介しますと、
   例えば「設立日以後5年を経過していない法人で、
   前事業年度において試験研究費等が
   収入金額の3%を超えるもの」といった会社です。
   外部からの資金調達が特に必要な会社として
   要件が規定されています。

なお、平成15年6月1日現在認定されている会社の数は21社で、
この21社に投資しており
エンジェル税制の適用を受けることができる個人投資家は
278人だそうです。
日本にもエンジェル税制ができたといっても、
対象範囲が狭いことから、
その活用はまだまだと言えそうです。

執筆:TFPコンサルティンググループ(株)税理士 布施麻記子
監修:公認会計士 山田淳一郎


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