中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第18回
コリアンダを食べさせたら日本人かどうかわかる

日本人は床屋に行って散髪をしたあと、
どんな香水をかけられても、
「いい匂いだ」といって満足する。
あのローションではいやだから、
このオーデコロンにして下さいと
うるさい注文をつけたりしない。
何をかけられても喜ぶくらいだから、
日本人はきっと匂いに対して
鈍感なんだろうと思うかもしれないが、
事実はちょうどその逆だから面白い。

日本人がどんな香水でも受け入れるのは、
日本人が匂いに対して初心だからであり、
初心な分だけ匂いを嗅ぎ分ける能力を持っているのである。
現に四百種類もあるバラの匂いを喚ぎ分けるコンクールをやると、
一等、二等になるのはたいてい日本人だそうである。
決してフランス人ではない。

どうしてそういうことになるかというと、
酒の飲み分けは、
酒飲みより酒を飲まない人のほうができるように、
香水でバカになった鼻よりも、
香水に対して初心な鼻のほうが
うまく匂いを嘆ぎ分けることができるからである。
そういった意味では、日本人の鼻はかなり鋭感な鼻である。

それが鋭敏な状態を保持しているのは、
よきにつけ悪しきにつけ、
匂いになれていないからである。
食べ物の匂いや香辛料に対する日本人の選り好みをみると、
このことはよくわかる。
日本にもクサヤとか、塩辛のような発酵食品はあるが、
いずれも魚を加工したもので、
好きな人には愛用されているが、
誰もが好む食べ物ではない。

発酵させてつくる物でいえば、糠漬とか、粕漬とか、
あるいは醤油漬といった物が多い。
野菜が一番多いが、魚や肉の保存にも利用されている。

糠漬や沢庵は一種独特の匂いがするので、
日本人の中にも絶対食べないという人があるが、
洋食がこれだけ普及しても日本人の食べ物として
最後まで残っているのは、
このていどの匂いなら我慢の限界内にあるからであろう。
もちろん、糠とか粕とかに漬けることによって、
野菜や魚に味がついて旨くなることを
経験的に知っているせいもある。

中国人は日本の漬物を食べるが、
西洋人は匂いを嗅いだだけで食べようとしない。
日本人は匂いに敏感だから、もちろん魚の匂いにも敏感である。
魚のナマ臭さは、魚の種類によって違うが、
ナマの状態で食べる時に一番鼻につく。

そのナマ臭さを消すために、
日本人はワサビとか生姜を使う。
また酢醤油や山椒を使う場合もある。
醤油を使って鰻を蒲焼きにする時とソバをすする時には、
七味や山椒といった匂いの強い香辛料を使う。
これがほとんど唯一の例外で、
あとの香辛料はいずれも匂いを消すためのものばかりである。





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2012年8月23日(木)

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