中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第28回
日本人は職人、中国人は商人 その2

今日、世界中を席捲しているメイド・イン・ジャパンを
貫く特徴はどこにあるかというと、
まず第一は、その大半が日本人の独創になる
オリジナル商品でないということである。

カメラも腕時計も、オートバイや自動車も、
半導体やコンピュータも、もとをいえば、
いずれも外国から輸入したものである。
しかし、外国から輸入したアイデアや
システムを日本人は巧みに商品化する。

すでに外国で商品化されたものを日本に輸入して更に改良して、
一段とすぐれたものにして再輸出しているものもたくさんある。
この意味では、
日本人には独創性がないといわれても仕方がないが、
商品化するにあたって独創性を発揮していることは
認められて然るべきであろう。

すなわち、第二に商品化の過程で、生産性を上げたり、
コストを下げたり、不良品の発生を防いだり、
あるいは、消費者の利便を考えた改善に全力をあげている。
たとえば、電気冷蔵庫一つを例にとっても、
アメリカやイギリスのメーカーは五年前とほとんど
寸分違わない商品をつくっているが、
日本のメーカーは冷蔵庫としての原理は同じでも、
冷凍庫と冷蔵庫のドラが別々になったとか、
狭いスペースでも使えるように、
ノッポの冷蔵庫に形を変えたとか、
押しただけで氷の塊りが出てくるとか、
年々、小さな改良をくりかえすことによって五年たってみると、
まるで違った商品に変わっている。

デパートやスーパーに行って新しい商品を見ると、
まだ使える冷蔵庫でも、家を新築したり、
引越ししたりする時に新品に取りかえようかということになる。
こういうところが、
日本製品とアメリカやヨーロッパの製品との大きな違いであろう。
このことは日本人によってつくられる
あらゆる商品に一貫した特徴であり、
自動車やパソコンのような日進月歩の分野でも、
メイド・イン・ジャパンが優位に立つ原因になっている。

どうして日本人にだけこういう資質が備わり、
他の民族や国民にこうした資質が見られないのだろうか。
それはもちろん、日本人がカナを発見し、
カナをフリガナに応用することができたからではない。
フリガナで外国文化を
自家薬籠中のものに変える柔構造の頭脳を持っているから
できたことだとみたほうが正しいであろう。

それぞれの民族や国民にはそれぞれ特有の風土と歴史があって、
誰もが日本人と同じように行動できるとは限らないのである。
したがって、日本人の資質を日本列島という
日本的風土で説明することも不可能なことではない。
台風の定期的に来襲する地域に育った住民と
そうでない地域に育った住民の気質の違いが、まず目につく。
春夏秋冬の季節のはっきりした温暖な地域に育った人たちと、
熱帯や寒帯に育った人たちの
生活態度が異なることは当たり前のことである。

また周囲を海に囲まれた島に育った人と、
陸続きで絶えず戦乱に巻き込まれた国に育った人とでは、
外敵から受ける影響や
外敵から自分を守る知恵に格段の差があることも
充分に頷けることであろう。
そういった意味では、イギリス人のおかれた位置と
日本人のおかれた位置はよく似ているが、
両者の国民性がよく似ているとはとてもいえない。
同じように、ヨー口ッパ人と中国人が似ているともいえない。

やはりそれぞれの土地にそれぞれの風土的な特徴があり、
また異なる社会環境と歴史がある。
日本人は海に囲まれた
島国に育っていることは間違いないけれども、
文化的にはずっと中国からの一方的な輸入国であった。
形の上では士農工商という区別も一通りできているが、
細かいところを観察すると、
中国の士は同じ士でも士大夫の士であり、
隋唐の昔から官僚制度が発達し、
今日もなおその伝統が色濃く残っている。





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2012年9月4日(火)

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