中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第60回
日本人の自己批判、中国人の自画自讃 その2

同じように、中国人は本当のことも聞きたがらない。
聞いても本気にしない。
たとえば、二十年前のこと、
中国が国連入りをしたために台湾の国民党政府が国連を脱退し、
台湾中が上を下への大騒ぎになったことがあった。
国民党政府から私のところへ三度お使いがあって、
私は請われて二十四年ぶりに生まれ故郷の土を踏んだ。
約一週間、台湾にいた間、
新聞記者やテレビ記者が私のあとを追跡してまわった。

「久しぶりに帰ってきた故郷の印象はいかがですか」
と聞くから、「道の整備がよくできていませんね」
「街全体の色がくすんで見えますね」、
あるいは「商店街の看板が多すぎますよ、
あれではかえって広告効果がありません」と、
気づいたことを率直に述べた。

しかし、翌朝の新聞を見ると、
私の喋ったことは一行も載っておらず、
日本で著名な投資専家(投資の専門家)
邱永漢は、「わが国の政治が安定しており、
経済も予想以上に発展していると賞讃している」と、
勝手なことを書き立てている。

政府の目が光っていて
当路の人がそういう具合に書かせたがったせいもあったと思うが、
仮に政府が一切口を出さなかったとしても、
新聞記者たちは、そういう書き方をしたに違いない。

情報管制のきびしかった時代とはいいながら、
中国人は環境適応力が強いので、
時の政府におべんちゃらを言うことによって
生きのびようとする。

だから政治と無関係なごく一般的なことや
名所旧跡に対する感想でも、
権力者が聞いて不愉快な部分は一切、切り捨てて、
耳に心地よい部分だけを残す。

自分の描いた絵に自分で讃を添えているのを、
「自画自賛」と言うが、中国人ほど自画自賛、
それもあたりさわりのない
自画自賛にて徹した国民は見たことがない。

台湾に帰った当初、私はこうした
自惚れは国民党政府の連中に特有のものかと思った。
大陸から追い落とされて台湾でかろうじて命脈を保っているのに、
それでも自分らの政治が一番よいと自画自賛している。

警察と軍隊を使ってきびしく民衆の行動を監視し、
ちょっとでも反政府的な言動があったら、
すぐにも拘留して島流しにしてかろうじて治安を保っているのに、
それでも世界一治安のよい国だ、といって自画自賛する。





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2012年10月6日(土)

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