中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第59回
日本人の自己批判、中国人の自画自讃

中国人とつきあうようになった日本人なら誰でも感ずることだが、
中国人ほどおべんちゃらのうまい国民をほかに知らない。
はじめてあった人にも、一生懸命お世辞を言って、
少しでも賞められそうなことがあると、賞め言葉を並べ立てる。
賞めないでもいいことまで賞めそやす。
そうやって相手をいい気分にさせることが
交際術と思っているのである。

しかし、よく考えてみると、人にお世辞を言う人は、
人にお世辞を言ってもらいたい人でもある。
お世辞を言う要領を心得ているということは、
どこをくすぐれば相手が笑うか知っているようなものである。
そういう人は自分もくすぐってもらいたがる。

その証拠に中国人は、お世辞をきかされると、
たとえそれがお世辞とわかっていてもとても喜ぶし、
お世辞がなかなかとんでこないと、
今度は自分のほうから自慢話をしはじめる。

中国には「老王売瓜」という諺があるが、
日本語に直したら、
さしずめ「手前味噌」とでも訳したらいいだろうか。
日本人の手前味噌も自慢であることに違いはないが、
中国人はもっとずっと商売気があるから、
宣伝も派手で、自分を売り込むことに
いささかのためらいも見せない。
他人にお世辞を言うことと、自分の自慢をすることが
ワンセットになっていると思ったら間違いない。

たとえば外国人がやってくる。
日本の新聞記者やアナウンサーは、
「日本の印象はいかがですか。
私たちのやっていることに至らないところがあったら、
ぜひ教えてください」
といった質問の仕方をする。

相手が日本のことを賞しても、
お世辞を言われているんだなくらいに思って聞き流す。
反対に、相手がちょっとでも批判的なことを言ったら、
一言も聞き逃すまいとにわかにきき耳をたてる。

翌日の報道を見ると、日本のこういうところが悪い、
ああいうところは改めなくっちゃ
といった記事だけ抜粋されている。
日本人にはちょっとマゾの傾向があって、
貶されると嬉しがるところがあるし、
また自分らの欠点を少しでも直そうという真剣さが見受けられる。

何もああまでへりくだらなくともと言いたくなるほど
謙遜な態度をとる。
中国人は、お世辞はうまいほうだから、
最初から大きな態度に出ることはないが、
説明の過程で必ず自分らのよいところを一生懸命、売り込む。
スケールが大きければ、スケールの大きいことを自慢するし、
昔のことであれば、歴史の古いことを自慢する。
大した技術を持っていなくとも、
技術者の多いことで全国何番目にあたるとか、
日本やアメリカのどこの会社と技術提携をしていて、
中国では一番よく売れているとか、
少しでもよいところがあると必ずそれを自慢にする。

根が商人だからか、
中国人は自分の畑でできた胡瓜が一番うまいと言って、
懸命に売り込もうとする。
お世辞のうまい人は本当のことを言わない。
また言いたがらない。
中国人が物を見て貶すのは本当に買う気を起こした時だけである。
安く買うためには値切らなければならないし、
値切るためには貶すことからはじめなければならないからである。





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2012年10月5日(金)

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