中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第62回
日本人の自己批判、中国人の自画自讃 その4

台湾での商売を見てもわかることだが、
中国人は商人的性格が強く、
コストダウンに力を入れるので、
品質より値段で勝負が行われる。

ナイロンを生産しても、
テトロンを生産しても中国人は安くできて
お金が儲かることを自慢する。

その代わり、品質にムラがあって、
織物にするとヤレが生じたりするから、
どうしても一級品として扱われない。
それでは不況の時に値を叩かれて苦しむので、
私は品質を向上させるために、
日本の一流化繊会社の定年退職した技術者を顧問、
あるいは工場長として迎えたらどうか、
とアドバイスしたことがあった。

ところが、案に相違して、
台湾の化繊会社のオーナーたちは
一人として私の意見を受け入れようとしなかった。
「うちの技術は日本に負けたりしませんよ。
みんな一生懸命、研究しているんですから」

「でもあなたの着ているそのシャツは日本製じゃありませんか。
どうして自分の工場で縫製したものを着ないで、
三倍も五倍も高い日本製をお買いになるのですか」

「そりゃ物が違うからですよ。だいいちデザインが違う」
「それなら日本製に負けないような
品質のよいものをつくるようにすればどうですか」

「私どもは安い物をつくっているのです。
広い世界には安い物を欲しがる顧客がたくさんいます。
安い物としてはうちが一番です。
その証拠にエジプトやナイジェリアでは
とぶように売れているのですから」。

一事が万事こんな調子だから、
もう一歩のところに手が届かないのである。
お金が儲かれば、あとはどうでもよいという
中国人のこうした態度は、台湾だけの傾向ではない。
シンガポールに行っても、香港に行っても、
中国人のやり方は皆、同じである。

中国大陸に行っても、
耳にたこができるほど同じことを聞かされる。
たとえば、いまの中国大陸では
外資の導入に国をあげて力を入れているが、
あるところが率先して経済技術開発区や、保税区や、
高技開発区(高級科学技術を省略して高技と呼ぶ)をつくると、
それに右へならえをするように、
どんな辺鄙な地域でも同じものをつくりにかかる。

私が投資視察団をつくって出かけて行くと、
どこに行ってもすぐ、「老王売瓜」がはじまる。
自分らの地域が他に比べて
いかに有利な条件を備えているかをしきりに強調する。

なかでも高技開発区はどこでも自慢のタネになる。
自分らのところにいかに技術者がたくさんいるか、
省内に工科大学が何十校あるか、
といったことを力説する省長さんもあれば、
毛沢東が外国と戦争する覚悟をして
全国の技術者をこの都市に集めたので、
すぐれた技術者が集まっているのだ、
と強調する市長さんもある。

お国自慢は日本でも珍しいことではないが、
中国人のそれを聞いているとだんだん空々しくなってくる。
日本人は第三者の批判を聞きたがるのに対して、
中国人の話は徹頭徹尾、自画自讃で終わる。
中国人が経済や社会の面で
日本人に後れをとったのは
決して偶然ではないように思う。





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2012年10月8日(月)

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