中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第81回
質屋を見れば経済感覚の違いがわかる

中国人は人前でも平気でお金の話をする。
それが日本人と一番違ったところである。
この違いは、お金に対する中国人と
日本人の哲学の違いから生じたものである。

お金がなければ今晩食べるお米だって買えないのだから、
お金が必要なことは子供でも知っている。
だからお金の話をすることは恥ずかしいことでも何でもなく、
お金がないからといって
人にかくすことはないと中国人は思っている。

ところが、日本人はお金を必要悪の 一つとしてとらえており、
お金のことを口にすることも、
ましてお金のないことを口にすることなど
とても恥ずかしいことだと思い込んでいる。

たとえば、うちの家内が中国人の友達と会ったとする。
どちらかが新しい服を着ていたりすると、
「あら、素敵ね。とてもよく似合うわ」
とお世辞の一つも言うところまでは日本人も中国人も同じだが、
中国人だと次の瞬間にはもう相手の服を手でさわったり、
「いくらで買ったの?どこで買ったの?」ときいたりしている。
きかれたほうも、「失礼な人ね」と思う人は一人もなく、
どこの店で定価はいくらしていたけれども、
いくらに値切って買ったかを正直に相手に告げる。

「あら、安かったじゃないの」とか、
「ちょっと高すぎるんじゃないの」とか、
「おたくの旦那様、気前がよくておしあわせね」とか、
幾通りもの答えが予想できるが、
物の値段をお互いにききあうのは遠慮のない仲だ
ということもあるが、
心の中で「どうです。うちは買物上手でしょう?」
と自慢したくなる気持ちと、
「羨ましいでしょう。こんな高い買物でも平気でできるんですよ」
という虚栄心が同居しているのである。
高い物を買える身分であることと、
高い物を安く買えることは
中国人にとって同じくらい自慢に値することなのである。

ところが、日本人の奥さんたちは
中国人の奥さんたちのような反応はしない。
パーティで目の醒めるような豪華で
いかにも高価そうなキモノを着た奥さんを見て、
「趣味がおよろしいわ」「とてもきれいなキモノですこと」
と賞めることはあっても、
直接ご本人に「どこでお買いになったの?」
「お高いでしょうね?」ときくような、はしたないことはしない。

もしどうしてもききたかったら、
すぐお隣りに坐った別の奥さんに小さな声で、
「ね、ね、あの奥さんのキモノ、ゑり円で買ったのかしら?
とても高そうね。
いくらくらいしたと思う?」
ときいたりする。

正確な情報を知りたかったら、
直接本人にきけばよさそうなものだが、それは絶対にやらない。
身につけている物の値段をきいたりするのは
失礼なことだと思い込んでいるからである。

その点、中国人の最大の話題は食べ物の話とお金の話である。
はじめて会った人でも、食べ物か、
お金の話をしたらたちまちリラックスする。





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2012年10月28日(日)

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