中国人と日本人 邱永漢

「違いの分かる人」へのヒントがあります

第87回
初期の対中国投資はなぜ失敗したか その2

では日本および日本人が、一夜明けたら、
なぜ世界の金持ちになっていたのであろうか。
その秘密はどこにあるのであろうか。

一言で言えば、職人気質を持った日本人が
付加価値のある生産を手がけてそれに成功したからである。
日本は資源のない国だから、
原料の大半は外国から輸入している。

原料にあたるものは、鉄鉱石でも粘結炭でも、
あるいは、石油やボーキサイトでも、
製品に比べればうんと値が安い。

原料がいくら値上がりしても、
製品価格はそれに上乗せをするだけだから、
どんな場合も原料が製品よりずっと安いことは変わらない。
その安い原料を買ってきて、素材をつくる。
アルミのように自国でつくるより
インゴットで輸入してきたほうが安い場合は、
外国で加工してから輸入すればよい。

それを使って自動車、家電製品、腕時計、力メラ、
半導体のような小物まですべて日本でつくりあげる。
その過程で百円のものが千円になり、
千円のものが一万円になる。
いくら手間をかけても売れない物は何の値打ちもないが、
お金に換えることさえできれば、
千円の値打ちもなかったものが一万円にも、
あるいは、十万円の値打ちもあるようになる。
自動車一台が仮に三百万円に売れるとして、
原材料の状態で輸入された時が一万円だとしたら、
生産の過程でふえた二百九十九万円は
すべて付加価値ということになる。

こういう作業はすべて職人の仕事である。
日本人の完璧主義と勤勉さとチームワークのよさは、
こうした場合、物づくりにプラスとして作用する。
猿真似と言われようと、独創性がないと毒づかれようと、
日本人は物づくりに励み、
世界の市場で競争してアメリカやヨーロッパの商品を
凌駕するようになった。

生産がふえれば、それだけ社会的な富がふえる。
物づくりのために資本を出した人と、
その生産に従事した人が
ふえた富の分け前に最も多くあずかるから、
日本人がドンドン金持ちになるのは物の道理である。

資源もない、資本もないと言われていた日本が
たちまち世界の富裕国にのしあがり、
世界中の元首や総理が日本人のお金をあてにして、
東京詣でをするようになった。

しかし、こうした日本人の黄金時代も、
そういつまでも続くわけではない。
「満つれば欠ける」のたとえどおり、
金持ちになるということは、
収入が多くなってだんだん怠惰になるということでもあるし、
労賃が高くなりすぎて物をつくっても
コスト高に悩まされてひきあわなくなるということでもある。
国内で生産が採算にのらなくなれば、
日本の企業は労賃が安くて
物が安くできそうな外国へ移動をはじめる。
その一方で、日本の隆盛ぶりを見て、
日本と同じ工業化路線を歩きたい国が
あちらこちらで名乗りをあげ、
NIESの国々のように
日本の後を追って見事な成績をあげる国も現われている。





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2012年11月3日(土)

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