第14回
メシの種を提供すれば、人はいくらでも集まってくる
私もだんだん年をとってきたので、
世の中の仕組みが自分なりに見えるようになってきた。
定年退職をして第一線から退いた友人たちを見ると、
世間からあまり相手にされなくなっている。
それは物の考え方が古くなって
実社会とのズレが激しくなるからといっても
決して間違いではないが、
どうも人々に利益をもたらす機会が少なくなるからだと
見る方が正しい。
その証拠に、七十歳になっても八十歳になっても、
重要なポジションにいて、
多くの人にメシの種を提供している人のところへは、
いくらでも人が集まってくる。
かつての目白の田中邸などはその好例であろう。
史記にも出てくる話だが、かつて食客三千人と言われた孟嘗君が
斉の宰相の地位を追われると、食客たちはみな、
そのもとを立ち去った。
食客の一人として最後まで残ったフウカンが、
「秦に行くため、車を一台、お貸しいただければ、
必ず君が国で重んじられるよう、
また君の封邑がもっと広がるようにしてごらんに入れますが」
と言った。
孟嘗君が車とおくりものを用意してフウを秦に送り込むと、
フウは秦王をロ説いて、孟嘗君を用いることをすすめた。
秦王が喜んで、車十乗と黄金キョイツをおくって
孟嘗君を迎えようとした。
秦の使者より一足先に斉に戻ったフウカンは
斉王に「秦王が孟嘗君を宰相に迎えようとしていますよ」
と耳打ちをした。
斉王は人をやって国境を監視していると、
はたして秦の使者の車が斉の境内に入ってきた。
使者は駆け帰ってその由を告げた。
斉王は孟嘗君を召して再び宰相の位につけ、
もとの封邑のほかに更に千戸を増封した。
孟嘗君が宰相の位に復すると、
一旦、孟嘗君の許を去った賓客たちがまた戻って来ようとした。
孟嘗君がそれを拒もうとすると、フウカンがその非をさとした。
「富貴なら追従する士が多く、
貧賎なら交友が少ないのは事の当然です。
君には、朝早く市場へ行く人々を見たことがおありでしょう。
朝早くは、肩を張り先を争って門を入りますが、
日が暮れると、あたりをきょろきょろする人も
いなくなってしまいます。
それは朝を好み、日暮れをにくむからではありません。
暮れには市場に商品がないからです」
「わかった」と孟嘗君は言った。
昔通り賓客を迎えると、
孟嘗君の門前は再び食客三千人で賑わうようになったそうである。
金持ちになることが人生の究極の目的とはいえないが、
金持ちになると、
金儲けのチャンスや情報が集まってくるから、
人がいくらでも集まってくる。
しかし、世の中には金は集めるが、
金儲けのチャンスは一切、
人に与えない癖をもったケチな金持ちもいる。
こういう人のところへは人は集まって来ない。
間違って集まってきた人たちも、
すぐその間違いに気づいて離散してしまう。
この意味で、お金を持っていて、
それを散ずることを知っている人と、
自分にお金がなくても、
お金儲けのチャンスを惜しみなく人に与える立場の人は、
年をとっても淋しい思いをしないですむ。
葬式のときもかなり賑やかな葬式になることが期待できる。
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