第80回
国は大衆課税をしないと財政がもたないところまで追い込まれている
そこで、「自営業者や法人に必要経費を認めるなら、
サラリーマンにも認めろ」とか、
反対に「もしサラリーマンに必要経費を認めないのなら、
みなし法人とか中小企業から
もっときびしく税金を取り立てろ」という、
嫉妬に狂った要求も出てくる。
如何にももっともな要求だから、
私も「ゼイキン報告」や「節税の実際」の著者として、
いろいろな角度から検討をしたことがあった。
たとえば、背広はサラリーマンとしての
体面を保つために必要なものだから、
背広の代金は必要経費として認めよという要求があったとする。
なるほど、これは傾聴に値する要求である。
ただ、背広の代金が必要経費なら、
靴やネクタイや腕時計の代金も必要経費であろう。
その場合、ではこれらの代金のどこまでを
必要経費として認めるかという基準の設定をする段階に至ると、
たちまち議論百出して収拾がつかなくなる。
同じ背広にしても、フェレやアルマーニを着る人もあれば、
青山商事やアオキの二万円か三万円で
手に入るものを着る人もある。
また社内をざっと見わたしても、
社長が一番高価なものを身につけているから、
社長の控除を大きくすべきだろうか。
それとも社内における地位にかかわりなく、
おしゃれで身のまわりにお金をかける趣味の人の控除を
一番大きくすべきかということになると、
議論はますます沸騰する。
あれこれ異見を取りまとめて、
落ち着くところに落ち着かせてみると、
結局は一人一人、必要経費を申告していたのでは、
それを認めるかどうかの査定をしているだけで
日が暮れてしまう。
まさかセールスマンには多額の必要経費を認めて、
ブルーカラーに認めないというわけにもいかないし、
まして高い背広を着る人に、
服装に関心を持たない人以上の必要経費を認めるわけにはいかない。
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