第92回
人の資産や収入は、学歴や教養や能力とは関係がない
私がそのことに気づいたのは、
「邱永漢財務相談室」をつくって
人々の相談に応ずるようになってからのことであった。
私のところへ相談に見える人たちは職業も千差万別なら、
企業のスケールも、上は大企業の社長や重役から、
下は零細企業のオヤジさんや
しがないサラリーマンに至るまでいろいろだった。
私はそういう人たちに、
自分の持っている資産や月々の収入を書き出させたが、
それを見ると、従事している企業のスケールと
必ずしも一致しないし、
その人の学歴や教養や能力もほとんど関係がなかった。
たとえば、収入で言えば、
自営業と給与生活者では月々の収入がまるで違う。
サラリーマンはサラリーがほぼきまっているし、
それ以外に別途収入は少ない。
しかも収入源が100パーセント税務署におさえられているから、
俗にトーゴーサンと言われているように、
節税の余地がほとんどない。
大会社の社長でも、創業者であり、
かつ大株主であれば別だが、雇われ社長になると、
普通の平社員よりは当然収入は多いが、
月々の収入のほかに一千万円や二千万円のボーナスをもらっても、
然るべき控除をやったあとは
五〇パーセントの税金をとられてしまう。
妻も息子や娘も社員にしてサラリーを払っている、
商店街のハ百屋や精肉屋のオヤジの実質収入に比べると、
決してゆとりがあるとはいえないのである。
では自営業者ならば皆よいかというと、
商店から町工場までハヤっている業種に
従事している人はいいとしても、
時世に合わなくなった商売に従事している人たちは、
景気のいいときでもいつも頭を抱えている。
私が相談室をはじめた三十年くらい前には、
どこの駅前にも商店街があって、フトン屋とか、染物屋とか、
セトモノ屋とか、家具屋とか、
駄菓子屋とかいった小売店があった。
そうした中で今日も残っているのは、
洋服屋、ハ百屋、 肉屋、魚屋、本屋、薬屋、
化粧品屋、アクセサリー屋、自家製和菓子屋くらいなもので、
あとのお店はほとんど姿を消して しまった。
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