第91回
時代の要求をうまくとらえられれば金持ちになる
お金持ちになりたかったら、
そのための努力をする必要がある。
人より早く起きて、人より遅くまで働くとか、
わき目もふらず汗水垂らして働くことも必要である。
しかし、人よりよく働くということは、
人よりよく身体を動かすということではない。
小まめに身体を動かすことも、
もちろん必要なことだが、
どうやったらお金が儲かるか、
よく頭を使って見定める必要がある。
もし、よく働けば必ずお金持ちになれるのなら、
世の中は働く順序にお金持ちになっている筈である。
ところが必ずしもそうなっていないところを見ると、
世の中には別の法則が働いていることがわかる。
まだ自分が実際に実業の世界に足を踏み入れていない頃、
私は昔の修身の教科書に出て来るような、
勤勉とか節約が人間を成功に導くものだと単純に考えていた。
二宮尊徳のように鶏の鳴く前に起き出して一生懸命、
田圃の草取りをしたり、粗末な食事に甘んじたり、
あるいは収穫があってお金がころがり込んで来ても、
なるべくお金を使わないようにして
貯蓄に励むのが金持ちになる方法だとばかり思っていた。
今日でも、尊徳先生の言う「小を積んで大を致す」思想、
即ち小銭だからと言ってバカにせず、
無駄を省いて種銭をつくれという考え方には賛成だが、
それが金持ちになる唯一の道だとは思わなくなったし、
ましてお金持ちになったあとも、
貯め込む一方の生活をすることには
抵抗を感ずるようになっている。
尊徳先生の思想が通用したのは、
年々ほぼ同じだけの国民総生産しかなかった
農業社会だからであって、
付加価値のある工業生産がドンドン行なわれるようになると、
お金を儲けた人がお金を使わずに貯め込んでしまったら、
お金の動きがとまって世の中が不景気におちいってしまう。
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