第94回
世の中にはお金の儲かる商売と儲からない商売がある
あるとき、私のところへ八百屋を二軒ひらいている
商店街のおかみさんが相談に来たことがある。
アッパッパーというほどではないが、
それと大してかわりない普段着でやって来て、
「主人がどうしても手が放せない所用があって、
お前、代わりに行って聞いて来いと言われてまいりました」
と少しもわるびれない。
相談というのは、二軒の店に分散すると、
どうしても目が届かないから、
一か所にまとめたいと思う、
ついてはいまの店をこわしてビルに建てなおしたいが、
どうだろうか?といった簡単なことであった。
「建築資金は?」と聞いたら、
いまからもう二十何年も前のことであるが、
「六千万円かかると建築屋に言われましたが、
そのくらいのお金ならあります。
ただ税務署の手前もありますので、
半分くらいは銀行が貸してくれることになっておりますが……」
「それなら、何も心配することはありませんよ。
すぐにもおやりになってください」と私は答えた。
答えながら、改めて相手をしげしげと見つめた。
この人の前に相談に見えた人は
神田で印刷屋をひらいている社長さんだった。
売上げはあまり伸びないのに、
人手不足で印刷工は集まらない。
いまいる職人さんたちが辞めないようにと、
腫れ物にでもさわるように扱い、
一緒に残業しなくてもよいのに、
仕事が終わるまで会社に残って酒のサービスまでする。
しかし業績は悪くなる一方だから、このまま続けたら、
そのうち、にっちもさっちもいかなくなることは目に見えている。
この際、三百坪ある敷地を坪百万円で売って
百人あまりの社員の退職金を払い、
残ったお金で何とか収入のある不動産でも買って
食っていきたいと思うが、どうだろうか、と
うしろ向きの相談であった。
世の中にはお金の儲かる商売と儲からない商売がある
あるとき、私のところへ八百屋を二軒ひらいている
商店街のおかみさんが相談に来たことがある。
アッパッパーというほどではないが、
それと大してかわりない普段着でやって来て、
「主人がどうしても手が放せない所用があって、
お前、代わりに行って聞いて来いと言われてまいりました」
と少しもわるびれない。
相談というのは、二軒の店に分散すると、
どうしても目が届かないから、
一か所にまとめたいと思う、
ついてはいまの店をこわしてビルに建てなおしたいが、
どうだろうか?といった簡単なことであった。
「建築資金は?」と聞いたら、
いまからもう二十何年も前のことであるが、
「六千万円かかると建築屋に言われましたが、
そのくらいのお金ならあります。
ただ税務署の手前もありますので、
半分くらいは銀行が貸してくれることになっておりますが……」
「それなら、何も心配することはありませんよ。
すぐにもおやりになってください」と私は答えた。
答えながら、改めて相手をしげしげと見つめた。
この人の前に相談に見えた人は
神田で印刷屋をひらいている社長さんだった。
売上げはあまり伸びないのに、
人手不足で印刷工は集まらない。
いまいる職人さんたちが辞めないようにと、
腫れ物にでもさわるように扱い、
一緒に残業しなくてもよいのに、
仕事が終わるまで会社に残って酒のサービスまでする。
しかし業績は悪くなる一方だから、このまま続けたら、
そのうち、にっちもさっちもいかなくなることは目に見えている。
この際、三百坪ある敷地を坪百万円で売って
百人あまりの社員の退職金を払い、
残ったお金で何とか収入のある不動産でも買って
食っていきたいと思うが、どうだろうか、と
うしろ向きの相談であった。
|