“蕎麦屋酒”の著者がプロ顔負けの美味探求

第126回
酒造り体験

2月は日本酒の蔵元が一番忙しくなる時期だ。
造りは終わっているところが多いが、
仕込みと絞りの作業が重なる。
それも、ランクの上の酒は1月から2月頃の
寒い時季に行うことが多く、丁寧に造るので手間が大変だ。

かねてから、どこかの蔵元の手伝いをして
日本酒を実際に造る体験をしてみたいと思っていた。
それも、観光のようなちょっとした体験ではなく、
真剣に仕事をやる現場の中に入ってみたいと考えていた。
それが、昨年にようやくかなった。

自動車メーカーに勤めていた頃には、
出張などにかこつけて蔵元巡りはなんどもしていたが、
さすがに数日間の休みをとって
酒造りをすることは難しい状況であった。
大学に移れば自由になるかと思っていたら、
これが予想以上に忙しい。
私立大学で研究室には助手もいなくて、
雑用も全て自分でやらなくてはならない。
特に、初年度は授業の準備、
外部から受託研究を取るための研究企画と渉外の作業、
研究の準備などで多忙を極めていた。
大学の先生は暇だと世間で思うことが多いだろうが、
全くの誤解で、企業よりもやる仕事量は多いくらいだ。

それが、2年目の昨年度は
卒業論文の学生がついたこともあり、
かえって時間を作ることが可能となった。
2月の入学試験が一通り終わった時季に
1週間ほど暇がとれそうになったので、
いよいよ蔵元の酒造りの手伝いをすることにした。

やるからには、真剣な造りの現場に入ってみて、
それを実感すること、それに、お荷物になるのではなく、
蔵にも手伝ったことを喜んでもらいたい
という考えがまずあった。
そこで、手伝い期間は1週間にすることにした。
どこの蔵がいいか、色々考えたが、
昔ながらの杜氏と蔵人の酒造りの体制がまだ残されていて、
しかも少人数の体制で
私の加入が即戦力と考えてくれるという観点、
それに自分で好きな酒ということで、秋鹿酒造に決定した。
秋鹿酒造は毎年3〜4回は訪問しているので、親しみもある。

2月下旬の日曜日の早朝に大阪府の能勢に向かって出発した。
昼から蔵入りして、
次の土曜の昼まで働かしてもらう約束がしてある。
京都までは新幹線で、それから山陰本線に乗り換えて
亀岡駅で秋鹿の奥常務に
車で迎えにきてもらう約束がしてあった。
新幹線のなかでは、
友人の藤田千恵子さんが書いた名著
「杜氏という仕事」を熟読して、
これからの酒造りのイメージトレーニングを重ねた。
そして、亀岡駅に到着して、奥常務に迎えられる。
いよいよ、酒造りの体験。
わくわくしていることはもちろんだが、
果たして自分に勤まるのだろうか
という一抹の不安も混ざった不思議な気持ち。

亀岡の「楽々荘」で、イタリアンの昼食をすませ、
能勢へ奥常務の運転するVWのワゴンで向かうときは
さすがに緊張をしていた。
いよいよ蔵が見えてきた。


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